09.狼の子どもの恩返し
結界も直した(魔力を吸収されただけ)し、そろそろ領都へ向かおうかとミアとリザベラに話している時だった。
「おねえちゃん……もう一日だけとまっていってよ!」
村長の孫がミアの手を引っ張りながら、そう言った。
言われたミアは少し困った顔をして、微笑んだ。
「ごめんなさいね。もう狼の子どもの治癒も済んだから」
村長の孫は諦めきれないらしく、ミアの腰にしがみついた。少しだけボクのこめかみがピクピクしている気がする。いや、きっと気のせいだ。
「だって、あの子もいなくなっちゃったんだよ。みんないっぺんにいなくなるなんてさみしいよう!」
またしてもミアの体に頭をぐりぐりと摺り寄せて、時々こちらをちらりと見てはニヤっとした笑みを浮かべた。やっぱり、わざとか!その年齢でその行動……あざとい!
ミアはさっきよりも困った表情になったけれど、断りの言葉を述べた。
「私たちはお仕事でここにきているの。他の場所でもお仕事があるから行かないとなの。ごめんなさいね」
ミアは優しい声でそう言って、村長の孫の頭を何度も撫でた。村長の孫はまだ納得していないようだったけれど、何も言わず頭を撫でられていた。
その後、村長の孫をミアから引っぺがし村の入口へと向かったのだけれど、そこには狼がいた。
自転車くらいの大きさの狼が2匹としっぽの先にリボンをつけたシベリアンハスキーサイズの狼の子ども、リボンのついていない狼の子どもが他に3匹。あの狼の子どもの両親と兄弟といったところか。
ミアが狼の親子の前まで進もうとしたので、ボクとリザベラがついて行こうとしたら親狼たちが唸り声を上げた。ボクとリザベラが立ち止まり、ミアだけが進むと唸るのをやめた。
「お嬢様! おひとりでは危険です!」
「大丈夫よ、リズ。さっきまで一緒に遊んでいた子だもの」
ミアは全く恐れもせずに狼の親子のもとまで進んで行った。ミアが前に出たことでしっぽの先にリボンをつけた狼の子どもも前に出てきた。
ミアは視線を合わせるように少しかがんで、狼の子どもの頭を撫でた。狼の子どもは抵抗もせずそれを受け入れた。そして、たっぷり撫でられた後、ミアの足元にぽとりと何かを落とした。
「私にくれるの? もしかして、リボンと交換こかな」
そう言って拾い上げたのは、ウズラの卵くらいの大きさの翡翠色の石だった。それは狼の子どもの目の色とそっくりでもある。
「わぁ……すごく綺麗な石。ありがとう! 大切にするね」
ミアがそう言うと狼の親子は、森の中へと帰っていった。
狼たちがいなくなったので、ミアのそばまで行く。ミアは大切そうに翡翠色の石を見つめていた。
ミアが受け取った石をすぐさま鑑定してみれば、『守護の石』という名前のもので狼が敵対せず、時々味方するという効果があった。魔石ではないし、宝石でもない。これぞ異世界!といった感じの謎の石だ。
「すごい石を受け取っちゃったね」
ボクがそうミアに声を掛ければ、近くに立っていたリザベラは怪訝な顔をした。そういえば、リザベラには鑑定持ちであることを言ってないかもしれない。
「大事にしなきゃだね!」
「色も綺麗だし、ガラスの浮き球の保護網みたいなもので囲えば石を傷つけずにネックレスにできるんじゃないかな」
「あ~それいい!」
ボクとミアとでそんな話をすれば、リザベラの表情は眉をひそめて得体のしれないものを見るような目に変わった。けれど、それだけで何も言ってこなかった。
ミア付きの侍女だからねぇ、しっかり教育されているってことだね。
浮き玉の保護網は、琉球ガラスの浮き玉っぽいアクセサリー・ストラップなどをイメージしていただけると〜