07.ついでに結界を直しました
狼の子どもの治療は済んだし、治癒術師の派遣要請についてはクリアしただろう。今後の村と狼たちとの関わりについては、村の結界を直すことで改善するはずだ。
ん?ついでに村の結界を直しちゃえばいいじゃないか。直した後に領都へ行けばいいだろう。
ミアとともに村長の家に向かおうと思い、振り向くと村長と村長の孫、門番が少し離れた場所に立っていた。村民たちはさらに遠くに見える。
近付いて話しかけようとしたときに気が付いた。全員が全員驚いているようで、状態:驚愕になっているのだ。
「どうかしました?」
ミアがそう声をかけると村長がハッと我に返り言った。
「いいえ、何でもないですのう。それよりもこの後はどうされますかのう?」
「この後?ああ、村の結界を直せたらいいなぁと」
ボクの言葉で村長はさっきよりも驚いた顔になった。
「結界を直す力をお持ちとは……さすがですのう」
「いや、どんなものかにもよるから、とりあえず見せてもらってもいいかな?」
「ぜひ見てってくだされ。こちらですのう」
村長の案内で連れていかれたのは、村長の家だった。
って、また村長の家かい!
村長の家は村で唯一の二階建ての建物でさらに屋上がついている。その屋上へと連れてこられた。
「この鐘の音が村の結界を作り出しているんですのう」
だいたい60cmくらいの大きさのハンドベルを大きくしたような形の鐘が屋上の中央に設置されていた。その鐘を鳴らす舌に拳くらいの大きさの魔石が取り付けられていた。
「鳴らせてもいいですか?」
「それがのう……鳴らないんですのう」
ボクは村長の言葉に半信半疑のまま、鐘の内側にある魔石のついた金属の棒を外側に当てた。
「……鳴りませんね」
驚くべきことに、全く音が鳴らない。金属と金属がぶつかれば何らかの音が鳴るはずなのに一切ない。さすが異世界だ。
とりあえず、鐘を鑑定してみた。
結界鐘という魔道具のようで鐘の音が聞こえる範囲で害獣を寄せ付けない効果があるらしい。もちろん、基礎部分は魔石に組み込まれているのだけれど、複雑極まりない。パッとわかるだけでも5種類近くの魔術が組み込まれている。これを考えたのもやっぱり転生者なのかなぁ。
この結界鐘はだいたい1年くらいで魔力供給が必要になるタイプのようだ。永遠に動くようにもできるはずなのに、どうして中途半端な状態にしているのだろうか。
「その鐘は、村を起こした時に領主さまから贈られたものなんだそうですのう。ロックハンド領にある村や町には必ずあるんですのう」
村長たちはこの鐘の音がならないのは故障したためで直してほしいと思っている。実際には魔力を込めるだけで動くようになる。魔力を込めるだけなら、領都に依頼をださなくてもいいのだ。
そこをあえて、領都へ修理の依頼を出す。領都からは修理というか魔力を込められる人材が送られる。その人材は、村の様子を確認して帰り、領主へと報告する。
こんなところだろうか。
領都が機能していない状態だから、鐘を直したとしても問題ないだろう。
ボクは魔石に手を当てた。当てるだけで勝手に魔力が吸われていく。
ホント、この結界鐘を考えた人間はすごい人だったみたいだなぁ。
しばらくすると、魔力を吸われている感覚がなくなったため、手を離した。
「これで直ったんじゃないかな」
そう言って、金属の棒を外側に当てた。
カランカララン
突然ぶわっと薄い緑色の風が吹き、鐘の周りを回った後、四方八方へと消えていった。
今のは結界が発動したってことなんだろうなぁ。
「おお!久しぶりに鳴りましたのう!」
村長は見慣れているのかそれとも見えていなかったのか、ただ喜んでいた。
ボクとミアは初めて見る結界の発動だったため、驚いた表情のままだった。