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06.お迎えが来たようです

 昨日は、長いこと領の様子を聞いていたため、領都に向かうには遅い時間になった。そのため、そのまま村長の家に泊めてもらうことになった。

 というか、村長の家は宿屋も兼ねているらしい。村の中で一番大きな家だから、必然的にそのような扱いになったのだとか。


 翌朝、ボクは外から聞こえる楽しそうな声で目が覚めた。日が高いから朝と昼の間くらいだろうか。


「ほら、とっておいで~」


 ミアの元気な声が聞こえるので、二階の窓から外の様子を見る。

 木の棒を投げると狼の子どもが喜んで取りに行き、それをミアまで運ぶ。そしてもう一回投げて!と言わんばかりにミアの前にコロンと木の棒を置くのだ。

 さすがに犬ではないので、しっぽは振っていないのだけれど、喜んでいるのだというのは雰囲気でわかる。

 どう見ても、シベリアンハスキーと遊んでいるようにしか見えないのだけれど、実際は狼だ。

 狼ってもっとプライドの高い生き物だと思ってたんだけどなぁ。


 何度も繰り返しているうちに狼の子どものテンションが高くなりすぎて、ミアに飛び掛かり押し倒して顔や耳をべろべろと舐め始めた。


「やぁ、くすぐったい! ひゃぁ!」


 ミアのそんな声が響いて、なんとも言えない気分になった。……狼の子どもよ、グッジョブ。


 狼の子どもはひとしきり舐め終わると今度は、ミアの髪を縛っていた赤いリボンを引っ張り解いてしまった。リボンに鼻をあてフンフンと匂いを嗅いだ後、咥えてミアの周りを走り出した。


「そんなに気に入ったんなら、結んであげるよー?」


 ミアがそういうと狼の子どもは言葉を理解したかのように動きが止まり、リボンを差し出してきた。


「どこに結ぼうかなぁ。やっぱり首? 首輪みたいでよくないよね。しっぽ? 取れちゃうかな」


 あれこれと悩んでいると、狼の子どもがしっぽをミアに向けてきた。


「しっぽにつけていいってことだね」


 ミアはしっぽの先に近い部分にリボン結びをした。少し小ぶりのリボンがシベリアンハスキーのしっぽについているのだ、はっきり言っておかしい。


「できたよー」


 狼の子どもは、器用にも自分のしっぽの先を眺めて、満足したのかまたしても、ミアの顔や耳を舐め始めた。


「だめってばー! くすぐったいー」


 ボクの中の何かがおかしくなるから、それ以上そんな声を出さないでほしい。

 そんなことを考えている時だった。門番が慌てて走ってくる姿が見えた。そして、村長の家の中に入っていく。何事かあったのだろうと思い、すぐに着替えて一階にある広間へと移動した。



 広間へ行くと、村長が険しい顔をしていた。


「どうしたんですか?」


 ボクが声をかけるとどこかホッとしたような表情になった。


「実は」

「む、村さ周りに狼さいっぱいだでぇ!」


 村長の言葉を遮って門番が言った。言えなかったからか、村長は少しだけ眉をひそめている。


ワオオオォォォォン


 遠くから、というか村の入口の方から遠吠えが聞こえた。攻めてくるのか?と思い、村長の家の外へ出たら、狼の子どもがミアの服の袖を引っ張っていた。


「服は引っ張っちゃダメだよー」


 ミアは引っ張られても遊びの延長だと思っているようだった。だけどボクには、ぐいぐいと引っ張るその姿は、一緒に来てと訴えているように見える。


「たぶん、一緒に来てってことなんだと思う」

「え? そうなの?」


 ボクの言葉を聞いたミアはすぐに狼の子どもに引かれるがまま歩き出した。もちろん、ボクもミアについていく。


 引かれてたどり着いた場所は、村の入口近くだった。村の入口の外には、たくさんの狼たちが唸り声をあげながら立っていた。

 狼の子どもに引っ張られてつれていかれたのでなければ、怖くて近づけない雰囲気だ。


 狼の子どもは、ミアの服の裾を離すと何度も振り返りながら外へと走っていった。


 入口の外にいた狼たちのもとまでたどり着くと、頭を何度もすり寄せて甘えるような仕草をする。きっと、親狼なのだろう。


 何度も何度も頭をすり寄せた後、狼の子どもはミアの方を見て、その場でくるりと回ってみせた。くるりと回ると、ミアが結んだ赤いリボンがヒラリと舞った。

 狼の子どもがくるりと回ったことで、周りにいた狼たちがいっせいに森へと戻り始めた。


「さようならって意味?」


 ミアが寂しそうな声でそう言った。


「……リボン返しにくるかもしれないよ」

「そう……だといいなぁ」


 しょんぼりしているミアに言える言葉は少なかったので、代わりに頭を片手で引き寄せ、反対の手で頭を撫で続けた。

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