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05.陳情書が王宮に届いた理由

 治癒が済んだので、もう一度村長の家に行き詳しい話を聞くことになった。

 狼の子どもはミアに懐いたようでべったりと離れてくれない。そのため、狼の子どもも一緒に村長の家の中に入ることになった。

 その様子を見ていた村長の孫が羨ましそうにしていた。毎日世話をしてきたのに自分よりも後から来た人に懐くなんて、羨ましく思っても仕方ないよね。


「10日……いや8日くらい前の話になりますのう」


 そう言って、村長は話始めた。


 近くの森でキャンキャンという鳴き声が聞こえたので村の若者が行ってみると、熊避けの罠に狼の子どもが引っかかっていたそうだ。それを保護したのだけれど、傷が深いようで流れる血の量も多く感じすぐに王宮へ(・・・)治癒術師の派遣を依頼したのだそうだ。

 治癒術師がくるまでの間は、薬草を煎じて飲ませたり塗り薬を塗ったりしていて、なんとか悪化しないように努めていたのだけれど、昨日の夜から急に熱を出して、危うかったと。


「間に合ってよかったのう」


 そう言って村長は狼の子どもの頭を撫でようとしたら、するりと避けられてしまった。あからさまに口を開けてがっかりしている。

 何を思ったのか村長の孫も狼の子どもの頭を撫でようと手をだしたら、またしてもするりと避けられてしまった。そして、村長の孫がボクの顔を見てくる。


 えっと、触れって意味?

 仕方なくボクも狼の子どもに手を伸ばそうとしたら、グルルルルルゥゥと唸り始めた。

 村長と村長の孫の顔を見れば、うんうんと頷いていた。

 同士を見つけた時のような、それでいて憐れんでいるような目で見るなぁ!


 最後に、村長と村長の孫とボクの3人でリザベラの顔を見れば、少しだけ嫌そうな顔をした後、そっと狼の子どもに手を伸ばした。

 すると、狼の子どもはフンフンとリザベラの手の匂いを嗅ぎ始めた。匂いを嗅がれているほうのリザベラはカチコチに固まった表情になっている。そして、狼の子どもはリザベラの手に頭を摺り寄せた。


 ミアとリザベラだけは触ってもいいよーって、こいつは女好きに違いない!

 なんて考えていたら、村長の孫がミアに抱きつきに行った。


「おれもさわりたかったのにー!」


 ミアの腰にぎゅっと抱きついて頭をぐりぐりと摺り寄せているのだけれど、時々ちらっとボクの顔を見てくる。こいつわざとやってるのか!


「いけません、お嬢様から離れてください」


 リザベラが慌てて止めに入ったところでようやく、村長の孫は離れた。



 少しささくれだった気分のままだけれど、大事なことなので確認しなければならない。


「ああそうだ、どうして治癒術師の派遣要請を王宮宛てに送ったんですか? 領館の方が近いでしょう?」


 ボクは今思い出したかのように聞いてみると、何度も大きく頷いて話してくれた。


「半年くらい前からかのう、領主様が病で伏せっておるという話が広まってるおるのじゃ」


 領主が病で倒れているので、領主代理が動いているはずなんだけれど……。ここからは領都の宿で聞いた噂話と同じ内容で、税金を上げたり下げたり上げたり、政策を発表しては取り下げたりまた発表したり……。そんなことを繰り返すものだから、領館で勤めていた人たちがボイコットし始めたようだ。

 毎月、税金が変わりなおかつその月から変更せよなんてものがついているから、税金を取り立てたり計算している人たちにとってはたまったもんじゃない。

 政策だって、道路を直せと言われれば、予算を組んでって計算したり請け負ってくれる人を集めたりしたところで、やっぱりやーめた!なんてされたら、うん、ボイコットしたくなるよね。


 そんなボイコットした状態だというのは知らなかったので、村の結界の補強の依頼を領都へ送ったら、返事が全く来なかったらしい。返事が来ないことに業を煮やした村の若者が領都まで行って確認してきたところ、領館は大混乱に陥ってるらしく、ほとんど機能していない状態だそうだ。


「結界の補強をしてもらえないとわかったのでのう、代わりに熊避けの罠をはったんじゃところが、守り神様の子どもが罠にかかってしまってのう……」


 村長は肩を落としてしょんぼりと萎れていた。


 領館がほとんど機能していない状態というのも気になるけれど、領主代理は何をやっているんだろうか。そもそも領主は病気なんだろうか。

 病気だったら、治癒術でパっと治して復帰してもらえばいいのでは?


 さらに疑問が増えたような気がする。



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