04.狼の子どもを治しました
村長の家へ案内してもらい、家の中へと通してもらった。
ボクとミアが質素なソファーに座って村長の話を聞こうとした時だった。玄関の扉を勢いよく開けて、慌てた様子の8歳くらいの男の子が現れた。
「じいちゃん!もう、あの子あぶない!」
男の子は息をはぁはぁと息を切らせながら、そう言った。
「あの子ってどの子ですか?」
ミアが問いかけると村長は男の子とミアを交互に見た後言った。
「話よりも先に案内しますのう」
村長と村長の孫(?)に連れられて向かったのは、家の裏手にある納屋だった。納屋の中には柔らかな干し草が敷き詰められており、そこにはシベリアンハスキーの成犬くらいの大きさの狼の子どもが横たわっていた。
干し草のベッドの上で目を閉じたまま苦しそうに息をしている狼の子どもの足には白い包帯がしてあった。傷口からばい菌が入って熱が出ているといった感じだろうか。もしくは感染症にでもかかったのだろうか。
そんな様子を目の当たりにしミアは無言で近づいていき、干し草の上に膝をついた。
リザベラの「そんな場所に座ってはなりません!お嬢様お立ちください!」という悲鳴のような声を無視して、狼の子どもの頭を撫でながら唱えた。
「……診察!」
ミアは一瞬険しい顔をした。診察はレントゲン写真を見るような感覚で体の内部まで色付きで見えた後、どの部分がどのように悪いのかがわかるという上級治癒術だ。
内臓がくっきりと見えてしまうというのは、気分のいいものではない。
「……清潔!」
ボクが驚いている間にミアは、清潔をかけていた。淡い光を放ち外見の汚れが消えていった。きっとばい菌も消え去ったのだろう。
ミアは唇をぎゅっと引き結んで、一度深く目を閉じた後、覚悟を決めたように目を見開いた。
「……完全回復治癒!」
目を開けていられないほどの強い光が狼の子どもを包んでいき、ゆっくりと消えていった。
完全回復治癒を使っちゃうくらい狼の子どもの状態が悪かったってことだろうか。それとも全力で治癒を施したってことなのかなぁ。なんて思っていたら、狼の子どもはパチッと目を開けて、キョロキョロとしだした。状況の確認がおわると目の前に座っているミアをじっと見つめ始めた。
「もう大丈夫だよ」
ミアが微笑んでそう言うと、狼の子どもはぺろりとミアの手を舐めた。
狼の子どもが回復したわりに周りが静かだなと思って、振り返ると村長も村長の孫もリザベラも口を大きく開けて驚いていた。鑑定しないでもわかる。これは驚愕と畏怖だ。完全回復治癒を使う治癒術師って本当に少ないんだよね。ミアの場合はさらに神々しいまでの光を放って治すから、畏怖の念を抱くんだろうなぁ。またしてもミアさんったらやらかしちゃったんだねぇ。
「お嬢様……今のは」
最初に口を開いたのはリザベラだった。長年の付き合いがある分、復活が早いのかもしれない。
「リズ、私が使ったのは普通の治癒術だったよね?」
「いえ、あの」
リザベラが口ごもっていると、ミアが微笑んで名前を呼んだ。といっても目が笑っていないのだけれど。
「リザベラ?」
「……はい、そうでございます」
なんというか、リザベラも苦労してるんだなぁ。
ミアは狼の子どもの頭を撫でながら、村長と村長の孫にも微笑んで言った。
「村長さんたちも、私が使ったのは普通の治癒術でしたよね?」
村長は青ざめた表情で首をカクカクと縦に振り、村長の孫は顔を真っ赤にしながら大きく頷いた。