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01.緊急呼び出しされました

 前回の視察からしばらく経ったので、そろそろ次の視察という名の領地巡り先を考えていた。次もおいしい食べ物がある場所がいいなぁ。酪農関係で牛乳やチーズとかいいよね。それをまたマイン兄に広めてもらえれば、マイン兄の株が上がるだろうし。ミリア義姉がお茶会で広めるのもいい。

 それとも知識チートを発揮して、この世界に革命をもたらすような……などとあれこれと妄想にふけっていた時だった。


 耳についているイヤーカフが熱を発し始める。まだお昼にもなっていない時間にミアから念波が届くなんて珍しい。


【ジ、ジルゥゥ!】


 もっと珍しいことに取り乱した声というより半泣きの声で呼びかけられた。


【こんな時間に珍しいね。どうしたの?】


 ボクはいつもの調子でそう答えると、ミアは一気に話し出した。


【い、今ね、王宮からの急な知らせが届いたの。昼過ぎまでに王宮へ来るようにって、国王陛下から直々の知らせだったの! どうしよう? 私、何かおかしなことしたかな……】


 声はだんだんと小さくなっていき、どんどん気分が沈んでいっているのだとわかる。


【ボクの知る限りでは、ミアが何かしたとは思えないなぁ】


 普通の貴族の令嬢が、国王から直々に呼び出されるなんて滅多にないからねぇ。驚くのはしかたないだろう。ただ、ミアは普通の令嬢じゃない。だって、第二王子であるボクの婚約者だからね。


【私、婚約破棄されちゃうの?】

【はぁ!?】

【だって、呼び出されるのってそれくらいじゃない?】


 ミアさーん、何を急に言い出してるんでしょうねぇ。前世の婚約破棄物のラノベやら乙女ゲーやらの影響なんだろうか。ここはそういったゲームの中の世界じゃない。前世から考えれば、異世界かもしれないけどボクたちは考えて動いている。この世界は現実なのだ。


【ボクがミアから離れるなんてありえないよ。もし離れ離れになるなら、拉致って別の国に移住してやる!】


 転生者どうこうっていうのを抜きにしても、ミアは外見も中身も可愛らしい。こんな可愛い子を手放すなんて考えられないよ。


 しばらくミアを慰めたり励ましたり褒め殺したりしていたんだけれど、王宮へ行く準備をしなきゃいけないということで念波を終わりにした。

 どうせなら、ボクもミアと同席したいなぁなんて考えていたところで、ノックが響いた。





「失礼いたしま……」


 ミアは応接室のソファーに座っているボクに気付いたようで、言葉が止まってしまった。

 ボクはといえば、ドッキリに成功したような気分になりにっこりと微笑んだ。


「実はボクも呼び出されたんだ」

「え!? じゃあ、やっぱり……」

「とりあえず、ボクの隣に座って?」


 立ち上がってミアの手を取り、3人掛けソファーに2人で座った。ちなみに、リザベラがソファーの後ろに立っている。


 急な呼び出しだったにも関わらず、ミアの艶やかな黒髪は複雑に編み込まれているし、着ているドレスは夜会行くのかというほど質の良い高級なものだった。普段のフリフリヒラヒラが封印されているのが、すごく残念だ。

 そんなビシッと決まった格好のミアの顔色はとても悪かった。念波で励ましたけれど、屋敷から王宮までの道中でもう一度悩み始めたっていったところだろうか。

 もう一度、どんなことがあってもミアからは離れないと伝えようとしたところで、国王()が現れた。

 ボクとミアは立ち上がったのだが、国王()が手で制して座るよう促された。


「今日呼び出したのは、とある村からの陳情書が届いてな」


 そう言って、国王()は一枚の紙をボクに手渡した。その紙をミアと二人でのぞき込む。


『 神獣である狼の子が怪我をしているため、

  早急に優秀な治癒術師を派遣してほしい 』


 なんだか、ツッコミどころ満載だなぁ。

 ボクの知るかぎり、この世界に神獣と言われている生き物はいない。ダンジョンの中にいるのが魔物、外にいるのは獣という分け方しかしていないはずだ。

 次に治癒術師の派遣要請であれば、領館に送ればいいのではないだろうか。怪我がどれくらいひどいのかはわからないけれど、わざわざ遠くの王宮あてに送る必要はないと思う。


「神獣に治癒術師の派遣ですか」


 国王()はボクの様子を見て、ニヤッといたずらを考えている子供のような笑顔で笑った。


「その派遣要請をしてきた村にとっては神獣なんだろうよ。昔から村の周りの害獣退治をしてくれるらしくてな、狼を大切にしてきたようだ」


 そんな理由であれば、神獣と呼ぶようになるのもわかるような気がする。


「まぁ、そんなわけだから、元聖女様候補のスウィーニー侯爵家の娘とお前とで行ってこい」


 国王()はそう言うと、勅命と書かれた上質な紙をポイッと投げつけて、部屋から出て行った。


 ボクはちらりと隣のミアを見たら、大きなため息をつき小さく丸まっていた。


「緊張したああぁぁ……」


 その言葉につい笑みがこぼれる。そっとミアの丸くなった背中を撫でると、背後から視線を感じた。

 振り返ると笑顔のリザベラがいて、手を除けるような手振りをされた。ボクはそんなリザベラを無視して、ミアが落ち着くまでずっと背中を撫でていた。

髪の毛きっちり編み込まれてるから、撫でるのは背中になりましたとさ。

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