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16.閑話:カーマイン主催の夜会にて

今日はなんとカーマイン王太子殿下主催の夜会に招待された。

今回は私とジルが視察に行ったロングフィード領特産のブドウをたっぷり使ったおもてなしになっているんだって。

なんかね、カーマイン王太子殿下は塩味の干しブドウがお気に入りだそうで、それを紳士な方たちに広めているとか。

それ以外にブドウの皮を食べて育ったブドウ鳥のソテーや甘酸っぱいブドウソースのかかったハンバーグなんてものも置かれていて、お茶会の時とはまた違った装いのブドウたちに夫人や令嬢たちも驚きを隠せないみたい。


私はといえば、まだ未成年なためブドウジュースをちまちまと飲んでる。

本当はジルと一緒にいたんだけど、第二王子として挨拶して歩かないといけないからって、早々に父様に預けられてしまった。

その父様もすぐに挨拶回りをしなくちゃならないっていなくなっちゃったんだけどね!


というわけで、久しぶりに壁の花になって会場を見ていると引きつった笑顔のジルが見えた。

理由はたぶん、さっきカーマイン王太子殿下へ挨拶に伺った時に、こっそりと教えてくれたことだと思う。


「実は毎日、騎士団でしごかれているらしいんだ」

「ジルクスくんが言うには、基礎体力の向上のためらしいわ」


つまり、しごかれすぎてぐったりしているってことらしいの。

ミリア義姉様からの言葉に小さく頷いておいたけど、魔術師にも基礎体力が必要なのかな?私もやったほうがいいかな?


そんなことを思い出しながらジルを見ていたんだけど、なんだか少し様子がおかしい。よくよく見れば、婚約者候補(自称)改め、愛人候補(自称)の女性たちに囲まれているみたい。

普段であれば、華麗にスルーして私のところへ戻ってきてくれるのに、今日はうまくいっていない。腕に手を絡められてしまって、引きはがすと他の女性に反対の腕を取られるというのを繰り返しているのが見える。何度も繰り返した後に、面倒くさそうに大きくため息をついているのが見えた。


ジルは私だけのものだと言ってくれたけど、今みたいに押しかけられたりしたら、いつしか面倒くさくなって諦めて愛人を作っちゃうんじゃないかな。

そんなことを考え始めたら、ジルのこと見ていられなくなっちゃった。


気持ちを抑えるために一人でテラスへ向かったら、見知った男性が近づいてきて声をかけてきた。


「お久しぶりだね、ミアさん」


私は作り笑いを浮かべるだけで何も答えなかった。

なぜなら彼は、王立学院での同級生なんだけど……はっきり言って苦手なんだもん!

なんて言えばいいのかな……自意識過剰というか意識高い系というかナルシストというか。ちょっと目が合っただけなのに惚れられたと思い込み、自分を好きになるとはあなたはなんて素晴らしい人なんだって褒め称えて、最後に自分がどれだけ素晴らしい人間なのかを語るってことをされたんだよね。

こっちは惚れてもいないし聞きたくもないのに、くっついてきて延々と聞かされるんだから、苦手だと思ってもしょうがないよ。


「なんだかとても寂しそうに見えたから声を掛けたんだ」


学生時代を振り返るとありえないようなことを言ってきたので、おもいっきり驚いた顔をしちゃった。そんな私の顔を見て、彼は照れくさそうな顔で笑ってきた。

もしかして、よく似た別人とかじゃないの!?


「学生の頃の話は黒歴史だから忘れてほしいんだ」

「はぁ」


いいや、本人だった。「はぁ」としか答えてないのに彼は嬉しそうに笑ってた。肯定の意味で受け取ったんだろうな。思い込みが激しいのは健在っぽい。


「自分でよければ、話くらい聞けるよ? どうしたんだい?」


学生時代とは多少なりとも変わったとしても、急に苦手意識がなくなるわけでもなく……。私は首を横に振って何も言わなかった。

しばらくそのまま無言でいたら、何を思ったのか急に私の髪というか頭に手を伸ばそうとしたんだけど、パシンッという音とともに弾かれた。


これって、ジルがくれた指輪の効果かな。防御の魔法が発動したのかもしれない。


彼は自分の手と私を交互に見た後、もう一度そっと手を伸ばしてきた。すると私の背後に暖かな気配を感じて、腰に腕が当たる感触がした。


「ミアに触るな」


その言葉とともに、伸ばしてきた手に光の塊がが当たるのが見えた。


バチッ


彼はうっと呻いて半歩後ろへ下がった。


ちらりと私の腰に腕を回している人物を見れば、予想通りジルが立っていた。

たしか周りには誰もいなかったはず。何もない空間から、ジルが現れたってことかな。これって新しいスキルかな。転移とかかな!

ジルは今までに見たことのないような表情をして立っていた。顔は笑っているのに目が笑っていないなんて初めて見たよ!


「ボクの婚約者に触れようとしていたようだが……?」


ジルの声は普段とは違う怒気を含んだ声のようで背筋がビクッとしてしまった。それと同時に他人に触れられそうになって嫉妬してくれていることに気が付いて嬉しく思った。


ジルは腰に回していない方の手にまた光を纏わせたあと、球状にして彼の周囲に漂わせた。無詠唱でそんなことができるなんて、やっぱりジルってすごいんだな。


彼は先ほどの痛みを覚えているのもあって、顔をしかめつつも言った。


「ミアさんがとても寂しそうに見えたから、慰めようとしていただけですよ。婚約者であるなら寂しそうな顔をさせないでください」


彼の言葉を聞いた途端、ジルは気まずい顔になり、漂わせていた光を消した。そして、真横で大きなため息が聞こえた。


「そうか、肝に銘じておく」


ジルの言葉を聞くと、彼は名残惜しそうな表情をした後、テラスを去っていった。

やっと苦手な人がいなくなったなーなんてぼーっと眺めていたら、背中から両腕でぎゅっと抱きしめられた。


「ミア~ごめん」

「えっと、寂しくなかったと言ったらウソになるけど、嫉妬してもらえたからもう大丈夫」


そう答えるとジルが私の肩に頭を乗せてきた。

抱きしめられることはあっても、こうやって肩に頭を乗せるなんてこと初めてだったので驚いた。


「ホント、ごめん。少し甘えさせて……」


ジルがこんな風に甘えるなんて珍しい!よっぽど疲れてるんだなと思うとさっきまでの寂しかった気持ちはどこかへいってしまった。


「少しと言わずにたくさんどうぞ」


抱きしめ返すことが出来なかったので、ジルの頭を撫でたらぐりぐりと摺り寄せられてた。なんかちょっとかわいいななんて思ったのは内緒!

ジルが使ったのは初級魔術の放電(リトルスパーク)の強化版みたいなものです

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