15.模擬戦をしました
ヘキサとテトラを召喚できたので、騎士団の訓練場で連携の確認をしてもらうことになった。
今回は、事前連絡を入れて、騎士団長たちに集まってもらってある。
「護衛が見当たりませんが、召喚獣ですか?」
中央の騎士団長が小首をかしげながらそう言った。
通常、召喚するものといえば「獣」なので、召喚獣という言葉を使われるのは仕方がない。でも、ヘキサとテトラは天使族であり、外見は人とそう変わりない。獣ではないのだ。
だからかな、驚かせたい気持ちになった。
「見てからのお楽しみで!」
ボクはクスッと笑いながら、訓練場の中央へ移動して、ヘキサとテトラを呼び出した。
「……呼出・ヘキサ!……呼出・テトラ!」
何もない空間から、ふわりと2人は地面に降り立ち、笑顔をボクに向けてくる。
「お呼びでございますか?ジルクス様」
「主様、なぁに〜?」
訓練場で見ていた騎士たちが驚き騒いでいた。さすがに騎士団長たちは声に出さなかったけれど、顔には驚愕が浮かんでいた。
「この前話した通り、騎士団の訓練場にきてるんだ。これから模擬戦するから、よろしく頼むよ」
「お任せください」
「オッケー!」
さすがに2人がどれくらい戦えるのかを知らずに来るほどバカじゃない。
テトラは箒を使って槍のようなレイピアのような動きをするし、ヘキサはカトラリーを投げて相手を縫い付けるようなアサシンのような動きをする。
ボクたちが話している間に、騎士団長たちが近くまで寄ってきた。
ヘキサとテトラを値踏みするような目線を送っている。ただ一人、中央の騎士団長だけは鑑定を使って情報収集しているようだ。
と、言ってもヘキサとテトラは転生者並にステータスを隠蔽することが可能だから、持っているスキルは見せないだろうし、せいぜい種族が天使族だってことしかわからないだろうなぁ。
「……絶滅したと思っていました」
中央の騎士団長の口ぶりからすると、おとぎ話ではなく実際に天使が存在したということを知っているようだった。ちょっと詳しく聞いてみたい気もするけれど、今はそれが出来る状態じゃない。
「よし、くじ引きするぞ!」
そんな雰囲気の中、西の騎士団長がそう言った。すると他の騎士団長たちが睨んだり、呆れた表情を浮かべたりしつつ、キッパリと言った。
「あなたは前回、ジルクス殿下と模擬戦したのでくじ引きさせませんよ」
「ちゃっかり混ざろうとするなんて、ホント、ダメな子ねぇ」
「ぐぬぬ」
西の騎士団長が呻いていたけれど、無視してくじ引きを始めた。
今回は、こちらがヘキサとテトラとボクの3人なので、騎士団長たちも3人で相手してくれるそうだ。
これは、中央の騎士団長の案で、天使族がどういった種族なのかを知っているということだろう。
ハズレを引いたのはその提案をした中央の騎士団長で、人生の終わりのような悔しがり方をしていて、やっぱりこの人も普通じゃなかったんだ……なんて思うくらいにはおかしかった。
東南北の騎士団長たちは、それぞれ喜色満面で戦う準備をしだした。
東の騎士団長は槍とベース型の大きめの盾を持っていた。鑑定してみると、西の騎士団長と同様に『盾魔防御』のスキルを持っているようだ。
南の騎士団長は両手に1本ずつ剣を持っていた。いわゆる二刀流ってやつだな。鑑定してみると、『十字防御』という武器をクロスさせることで物理的な攻撃を防ぐスキルを持っているようだ。
最後に北の騎士団長は、右手に刃渡り60cmくらいの刀のような武器を持っていた。もう片方の手には何も持っていなかった。鑑定してみると、職業が魔術剣士になっていたから、きっと刀身に魔術を纏わせて戦うのだろうと予想した。
大方の予想を立てたところで、中央の騎士団長により開始の合図があった。
今回は、事前に防御系の魔法を唱える暇を与えてくれなかった。
ヘキサとテトラが騎士団長たちの前に出ている間に、ボク含めて3人分の魔法をいくつもかけた。
「……全防御……全防御……全防御」
コレさぁ、人数分唱えるの面倒だし一回で複数人にかけられるような魔法を考えた方がいいよねぇ。
他にも北の騎士団長の攻撃を予想して魔法特化の守りの魔法である魔防御を、素早い動きに対応できるように移動速度上昇なんかもかけておいた。
ボクが防御や上昇系の治癒術を唱えている間、ヘキサとテトラは2対3で戦っていたのだけれど、はっきり言って余裕なようだ。
騎士団長たちが2人の力量を見定めるために本気を出していないっていうのもあるかもしれないけれど、3人の攻撃をすべてヒラリと避けて、まるで踊っているような動きだった。
テトラなんかは、東の騎士団長が足払いのような動きで槍を右から左へ動かしてもヒラリと避け、さらにフワリと浮いたりしている。なんともやり辛そうだ。
箒対槍の戦いなのだけれど、テトラは片手で箒を振り回して槍のような動きをするので、槍対槍の戦いと言ってもいいかもしれない。
ヘキサは南と北の騎士団長たちを相手にしているのだけれど、無限に出てくるのか?ってくらいにフォークを出して、南北の騎士団長に影縫いを食らわせている。
この騎士団長たちも只者ではないようで、普通の人であれば影縫いをされたら身動きできないのに、鈍い動きをしつつ影に刺さっているフォークを抜いて、すぐに前線に復帰している。
2人があまりにも強すぎて、ボクの出番が全くない。むしろ、ボクが魔術を打ち込んだら、邪魔してしまいそうだ。
しばらく2人対騎士団長たちの戦いを見ていたら、中央の騎士団長の「やめ!」という合図があった。
テトラとヘキサは息を切らすことなく余裕なようで、対する騎士団長たちは少し息が上がっていた。
「2人がいればジルクス殿下は何も心配いりませんね」
なんて中央の騎士団長に言われてしまった。これじゃ、当初の目的と違うじゃないか!
引きつった笑みを浮かべていたら、中央の騎士団長が笑いを堪えるように言った。
「ジルクス殿下はそうですね、まずは走り込みや体力作りから始めていただいた方がよろしいかと思います。その間に、こちらのお二方は我々騎士団たちと模擬戦を繰り返しておくというのはいかがでしょうか」
「それはなかなかの名案でございます」
「戦えるんならいくらでもやりたーい!」
ちょっと、ヘキサさんテトラさん!? 主人を置いてなに楽しもうとしてるんですか!
ああ、そうだ。天使族って戦闘民族だって言ってた。これって仕方がないのかもしれないけど、なんか腑に落ちない!
こうして、ボクは毎日、新米兵たちと一緒に走り込みをするようになった。
ジルっていつも見せ場を取られてて、可哀想な子?