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14.閑話:リュミリアナ主催のお茶会にて

普段よりは長い

珍しく三人称……かな?

ある晴れた日、王太子妃であるリュミリアナ主催のお茶会が王宮で開かれた。今回のお茶会王宮の一画にある庭園で行われたのだが、そこかしことブドウの甘い香りが広がっている。


「本日はみなさんにぜひ、オススメしたいものがあるの」


リュミリアナはにっこりと微笑みながら、そう言った。

侍女がリュミリアナに紅茶を渡す。それを受け取るとテーブルの上に置いてあったガラス瓶から赤紫色のねっとりとしたものを一匙すくって、紅茶に落とす。


「こちらはね、ある場所でとれたブドウを使ったジャムなの。これを紅茶に入れて飲むととっても美味しいの。それだけではなくってね」


リュミリアナは一口紅茶を啜って、お茶会に来ていた貴族の女性たちを見まわして言った。


「このブドウは美容にもいいんですって!」


その言葉を聞いた途端、女性たちはこぞって自らの紅茶にブドウのジャムを落とし始めた。

その様子をリュミリアナとジルクスの婚約者であるミアの二人が眺めていた。


「こんな感じでよかったの?」

「はい」

「本当に美容にいいのかしら?」

「ブドウには若返りの効果がある成分と脂肪を燃焼しやすくなる成分が多く含まれてるんです。なので、美容にいいと言って問題ありません」

「若返りは、わかるのだけれど、しぼうをねんしょうするっていうのはどういったものなの?」


リュミリアナの言葉に、ミアはしまったと思った。まだ、この世界では、体の構造が詳しく広まっていないため、脂肪といってもわからないようだ。


「言い換えますと、ダイエットにきくんです」

「ダイエット!それをみなさんが知ったら、もっと欲しがるわね」


脂肪というものは広まっていないのに、ダイエットという言葉は広まっているというのも不思議なものだ。


今回はブドウのジャムだけでなく、皮をむいたブドウがたっぷり乗ったタルトや甘い干しブドウを混ぜ込んだ焼き菓子、ブドウジャムを乗せたヨーグルトなどが出されていた。


ある程度、小腹を満たすとそのあとは情報のやり取りが始まる。

このブドウの出所を聞くために、たくさんの女性がリュミリアナを囲んだ。


「このブドウはね、ロングフィールド領でとれたものなの。ジャムは領都の孤児院で作られたものが一番美味しいんですって!それから、今度カーマイン殿下とブドウ狩りというものに行くのよ」


孤児院という単語が出た時点で、女性たちの顔色が悪くなったのだが、ブドウ狩りという単語ですっかり忘れてしまったようだ。


「ぶどうがりとはいったいどういったものなんです?」


女性たちは口々に似たようなことを言った。その言葉に、リュミリアナは本日一番の笑顔で答えた。


「ブドウ狩りというのは、ブドウ畑で新鮮なブドウを取ることを言うのよ。採れたてのブドウは、格別なんですって。自分で選び取るというのもとっても楽しいのだそうよ!」


にこにこととても楽しみにしているといった雰囲気で語れば、女性たちはつられてにこにこと笑顔を浮かべた。

きっとここにいる女性たちにはどういったものなのか全く想像ができていないのだろう。

知識のある女性であれば、本などでブドウが木に実る姿を見たことがあるだろう。だが、ここに集まる女性たちは流行を追いかけ、王族貴族の噂話に花を咲かせて過ごすような者たちなのだから、仕方ない。



離れた場所で、ミアはリュミリアナがブドウの話を広めているのを眺めていた。

ジルクスとミアの成果をしっかりと広めてくれている姿を見て、ほっとしていると視界を遮る人が現れた。


「あら、ミア様。どうしてこんな隅にいらっしゃるの?」

「お話しできる方がいらっしゃらないからですわ」

「やだぁ、はっきりと申し上げては可哀想ですわ」


現れたのは、いつもお茶会でミアに絡んでくる3人組の女性たちだ。

1人は侯爵家の令嬢であり、他2人は伯爵家の者である。

ミアとは年齢も近く同じ侯爵家でもあるため、何かとライバル視されて育った人物だ。


ミアは面倒な人がきたと思い、無言で微笑んでいた。


「それとも、ジルクス様への思いに耽っていたのかしら?」

「ジルクス様にいくら思いを馳せても、いずれは捨てられる身ですのにね」

「そうですわ。ジルクス様がこんな方を寵愛し続けるわけがございませんわ」


この3人組はことあるごとに、ミアにつっかかってくる。それは、ジルクスの婚約者候補であったからだ。

婚約者候補と言っても、自称ではあるのだが……年齢が近いというのもあり、可能性が全くないわけではなかった。

婚約してからしばらくの間は、何も言われずにいたのだが最近になってまたミアにつっかかってくるようになった。

彼女たちの言い分としては、結婚したらいくらでも愛人を囲めるのだということだ。

いずれミアは飽きられて、私たちが愛人になるのだという傲慢にもほどがある内容である。

そこにジルクスの意見は全く介入していない。


ミアはこの話を聞くたび、自信が少しずつ失っていく感覚に陥る。

今はジルクスから愛されている自信がある。だがもし、彼女たちが言うように結婚した後に飽きられたら?捨てることはできないのであれば、愛人を囲うのであろう。

ジルクスがそんなことをするような人ではないと信じているはずなのに、何度となく聞かされる言葉に不安が押し寄せてしまう。


「何も仰らないのは、すでに飽きられ始めているからかしら?」

「まぁ!婚約破棄の可能性もあるのですね!」

「ミア様のような方でしたら、それも仕方ありませんわね」


彼女たちの言葉に何も言い返さず、ぎゅっと唇をかみしめ少し下を向く。

ここで反論しても、よい結果にはならないのだ。何を言っても、悪い方へと話を進められてしまうのは今までに経験済みである。


ミアは心の中で何度も、『ジルに愛されてる。大丈夫』と繰り返し思っていた。

ちょうどその時、イヤーカフが熱を持ち、ジルクスとの念波がつながった。


【ジルに愛されてる。大丈夫】


心で思っていた言葉をそのまま念波にのせて、ジルクスへ伝えてしまったことには気付かなかった。


【ミア?今日はミリア義姉のお茶会に参加しているよね?】

【うん】

【今から、そっちに行くから】


ミアはその言葉でがばりと顔を上げた。

その様子を見ていた3人組は訝し気な顔をして、またしてもあれこれとミアに嫌がらせの言葉を浴びせる。

もう、ミアの耳に3人組の言葉は入っていなかった。


「リュミリアナ様、失礼してもよろしいでしょうか」


そう言って、ジルクスが庭園に入ってきた。

お茶会に参加していた女性たちが、第二王子の登場に黄色い悲鳴をあげた。


「ええ、ジルクス殿下。ミア様にご用がおありとのことでしたね」


リュミリアナが答えると、ジルクスはにっこりと微笑みながら真っ直ぐにミアのもとへ向かった。

ミアの前には3人組が立っていて、その3人はジルクスに取り入るように声を掛けた。


「ジルクス様!お久しぶりでございます」

「お会いできて光栄でございます」

「いつ見ても、ジルクス殿下は素敵ですわ」


ジルクスはあっさり無視して、ミアの隣へ立つと3人に聞こえるような音量でこう言った。


「大丈夫だよ。ボクはミアだけのものだからね」


ミアはその時になって、先ほどの念波で心の中で思っていたことを伝えてしまったことに気が付いた。

気付いてしまうと顔が赤くなっていく。


「はい。私もジル様だけのものです」


ジルクスとミアが2人だけの世界を作るものだから、3人組は大きくため息をついた。

見るからに今は2人の間に割って入ることはできない。

1人は眉間にしわを寄せ、1人は呆れた表情を浮かべ、1人は悔しそうに口をぎゅっと結んでその場を離れてどこかへ行った。


ジルクスはミアの手を取り、リュミリアナの隣へ向かう。

リュミリアナはこの後の展開がわかっているようで、大きく縦に頷いた。


「今日はこれを渡したくて、お茶会にお邪魔させていただいたんだ」


ジルクスはどこからか、藤色の薄手のショールを取り出してミアの肩にかけた。


「うん、よく似合っている。これはね、ブドウの皮で染めたものなんだ。今日のお茶会ではたくさんのブドウを使っただろう?その皮も有効に使うことができるんだ」


ミアの肩にかけられている藤色のショールは、見惚れるほど神秘的な色をしている。


「ジル様、こんな素敵な贈り物、ありがとうございます」

「まぁ!素敵な色……今までそのような色のショールは見たことがありませんわ!」


ミアは顔を赤くしてお礼を述べ、リュミリアナは絶賛していた。



その翌日から、ブドウで染めた布が大流行したのは、言うまでもない。


読んでくださってありがとうございます!

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ついったーなんかもありますんで、そちらもぜひ〜(>_<)

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