13.趣味の合う仲間を見つけました
ボクは朝一番にスウィーニー侯爵家へ、書状を送った。2時間後くらいにミアが王宮へと姿を現した。
対外的には、第二王子が婚約者を呼び出して、自室に連れ込んだといった風だろうか。
連れ込んだと言っても、ミアの侍女であるリザベラも一緒ではあるが。
ミアはいつもよりも張り切った感じのゴスロリ風のドレスを着ていた。袖口が広がっていて、肘から手の間が良く見える。
「いらっしゃい、ミア」
「えっと、お邪魔します?」
ボクが王族らしからぬ挨拶で出迎えたものだから、ミアもつい貴族らしくない挨拶を返す。
ミアのそばにいたリザベラの額がピクピクしていたけれど、見なかったことにした。
「今日はミアに見せたいものがあってね。それで呼んだんだ」
本当はボクのほうからスウィーニー侯爵家へ行きたかったんだけれど、人払いをすることを考えて呼び出すことにした。
「見せたいもの?」
ミアはきょとんとした表情のまま、あたりをキョロキョロしだした。
そんな様子も可愛いなぁと思って、つい顔が緩んでしまう。
「その前に、確認したいんだけれど……今後の領地視察にもリザベラは同行するんだよね?」
ちらっとリザベラの顔を確認すれば、小さく縦に頭を動かしていた。
「たぶん、そうかな」
ミアからも肯定の返事がきた。
それを聞いたボクは、リザベラ以外の侍女や近衛騎士たちを部屋の外へと追いやった。
リザベラが部屋の中にいるので、扉を少し開けておく必要もない。きっちり扉を閉めた後、いつものように隔離と閉鎖とついでに施錠の魔法を掛けておいた。
その様子をリザベラが眉をひそめながら見ていた。
「そんなに大事なものなの?」
「大事というかね。昨日の夜話してた」
「悪魔で執事!?」
ミアはボクの言葉を遮って、少し前のめりになりながら言った。
そんなミアの様子に苦笑いを浮かべた。どうしてそんなに悪魔がいいのだろうか。
「ごめん、悪魔ではないんだ」
「そうなんだ……残念」
「でも、それ以外はミアの希望通りだと思うよ」
そう言うと不満そうな表情から一転して、目をキラキラと輝かせた。
くすりと笑いながら、二人を呼び出した。
「……呼出・ヘキサ!……呼出・テトラ!」
ボクの呼び声で何もない空間にヘキサとテトラが現れた。
「お呼びでございますか?ジルクス様」
「主様、きたよー!」
ヘキサの硬い感じは執事っぽいなぁと思うけど、テトラの軽さにはちょっと驚く。
ミアは口を開けて嬉しそうな表情を浮かべていた。そのミアのそばにいるリザベラといえば、目を見開いて驚いていた。何もない空間から人が現れるとか、召喚の知識がなければ驚いて当然だろう。
「ボクの婚約者と引き合わせたくて呼んだんだ」
「そうでございますか」
そう答えるとヘキサはすっと目を細めてミアを見つめた後、すぐに驚いた表情になりパチパチを瞬きを始めた。
「これはまた……」
ヘキサはボソボソと何かを言っていたけれど、うまく聞き取れなかった。
「我が名はヘキサでございます」
「私はテトラだよー!ヘキサとは双子なのよー!」
二人はそう言って名乗りはしたが、頭を下げたりはしなかった。そこは主人かどうかで違うんだろうなぁ。
「ミア・フォン・スウィーニーです」
逆にミアはスカートをちょこんとつまみ微笑みながら、丁寧な挨拶を二人にして見せた。すると二人は少しだけ微笑んだ。
「やはり素晴らしいお方だ。我々のようなものに挨拶をくださるとは!」
えーっとヘキサさんなんかさっきまでと全く違う様子なんですけど、どうしちゃったんですかー。
ヘキサは恍惚といった感じの表情を浮かべ、深々と頭を下げた。
ミアはといえば、ヘキサよりもテトラの方が気になるようだ。
「ミア様のその袖口とってもイイ!」
「テトラさんの袖口からちらっと見えるフリルも素敵です」
ミアとテトラはゴスロリ談義に突入したようだ。
二人でお互いの服を褒め合った後は、こういった衣装はどう?という話を繰り広げている。
ヘキサは二人に放置されていても気にせずに、恍惚の表情でミアを見つめている。
何か間違ったかなぁ?なんて考えていたら、リザベラが不服そうな声で言った。
「失礼ですが、こちらの二人はどういった者たちなのですか?」
ああそうか、ミアには念波で護衛を召喚する話を伝えてあるけれど、リザベラにはわけがわからないだろう。
「ああ、あの二人は護衛として召喚した天使族なんだ」
「……天使族が地上にいるはずがありませんわ」
全く信じていないようで、疑わしい目を向けられた。
真正面から見れば、ヘキサもテトラも天使族の証である羽が見えない。
「あーヘキサ、体ごと横向いてくれ」
「はい、かしこまりました」
ヘキサにそう言って、横を向かせたのだが背中から羽が生えていなかった。
「あれ、羽がない」
「ジルクス様の従者として生活する際には不要であると判断し、消してあります」
「じゃあ、テトラは?」
「はい?」
テトラはミアと話をしていたため、聞いていなかったようだ。
「ヘキサと同じように体ごと横向いてくれ」
「はーい!」
テトラもヘキサと同じように横を向かせたら、背中から羽が生えていた。
「テトラは羽があるんだね」
「この格好に羽って似合うでしょー!」
まぁ、確かにゴスロリメイドに天使の羽とか似合うとは思うけれど、実用性を考えたヘキサとは大違いだ。
リザベラの顔を見れば、驚きすぎて何も言えないといった感じだった。
「まぁ、今後の視察の時にヘキサとテトラも同行するだろうから、よろしくってことで」
リザベラは首を縦にコクコクと頷いて、驚いた顔のままじっと二人を見つめていた。
ああ……天使とか悪魔ってこの世界では、おとぎ話レベルに珍しいものだったってことを今更思い出した。