11.召喚にも想像力が必要です
その日の夜、王宮の自室でミアと念波で話をしていた。
【旅の護衛として、召喚獣を呼び出して契約しようと思ってるんだけど、なかなかうまくいかなくてねぇ】
【ジルでもうまくいかないことってあるんだ!?】
イヤーカフから聞こえるミアの声が一段高くなってすごく驚いているのがよくわかる。
【うん。何が悪かったんだろう?】
事前詠唱も発動言語も一字一句間違いはなかった。それなのに、何も呼び出されないなんて……。
【ジルは、何を呼び出そうとしたの?】
【……あ!?何を呼び出すか全く考えていなかった】
【召喚も魔法なんだよね?】
【うん。召喚は魔術の一種だから、想像力が必要だったんだね】
亜種と言われていても魔術なのだから、想像力が必要だったのだ。それを怠れば、何も呼び出せるわけがない。
【何を呼び出そうかなぁ】
【悪魔でしょ?】
【えええ!?なんで、悪魔?】
【やっぱり、召喚っていったら悪魔で執事な感じかなって!】
ああ、前世でそんな人もいましたね。いや、実在したわけじゃないけど!
【悪魔で執事な人も魅力的だけど、大型の召喚獣を呼び出すっていうのも憧れるかな】
某RPGみたいなやつだね。
【リヴァイアサンとかバハムートとか?】
【そうそう!ミアも知ってるんだねぇ】
【うん!お兄ちゃんがやってるのを横で見てたからね】
そのお兄ちゃんってやつも今世の兄じゃなくて、前世の兄なんだろうなぁ。
【あーでもサイズが大きすぎるか】
【そうだね、画面いっぱいの大きさだったから、現実だったら家1軒分くらいかな】
きっとミアの言う家1軒分って、前世での家のサイズなんだろうなぁ。懐かしい気持ちになってくる。
【そう考えると人くらいのサイズの護衛のできる生物……か】
【やっぱり、悪魔!】
【悪魔か。でも、契約出来なかったら魂取られるんじゃなかったっけ?】
【それは困るから、悪魔じゃなくてもいいや。でも執事は外せないかな!】
【執事がありなら、メイドは?】
【メイドだったら、ゴスロリメイドで!】
なんというか、ミアの考えにはブレがないというか。
その後も他愛もない話をして、念波を終えた。
ベッドの上でゴロゴロとしていたのだけれど、眠気が来ない。さっきのミアとの話で、召喚を試したくて仕方なくなっているからだ。
起き上がり、窓の外を見ればローズガーデンが見える。あそこであれば、十分な広さがあるし……。そう思ったら止まらなかった。窓を開け、飛行スキルでふわりとローズガーデンへ降り立った。
今日は満月ではないけれど、月明かりもあって明るい。
バラの香りに包まれながら、呼び出したい生き物を想像する。
若い執事のような姿かゴスロリメイド服を着ている近接戦闘のできる生き物。
そのイメージが消えないうちに事前詠唱を唱え、続けて発動言語を!
「……召喚!」
月明かりと同じくらいの淡い光がボクの前に集まり、だんだんと人の形を成していく。と思ったら途中で光が半分に割れて、二人分の形を成し始めた。
驚いているうちに淡い光に包まれた執事(仮)とゴスロリメイド(仮)が現れた。
「あら?久しぶりに呼び出されたと思ったら、ヘキサも一緒なの?」
「そのようだな。これはまた珍しい」
執事(仮)とゴスロリメイド(仮)は、お互いの顔を見合った後、ボクの顔をじっと見つめだした。
っていうか、ボクは何を呼び出したんだ!?
すぐに鑑定をしたのだが、信じられなくて何度も唾を飲み込んだ。
「見てみて、ヘキサ!この人間とっても変わってるー!」
「確かに変わっているな。これならば、楽しく過ごせるかもしれない」
どうもボクのことを鑑定したようで二人ともニヤニヤとした笑みを浮かべている。
その後、周囲の観察をしだしたようだ。
「ローズガーデンだなんて、良い場所で呼び出したっていうのも高評価だね!」
「契約の証を刻むのにちょうどよい物も持っているようだな」
二人はもう一度お互いの顔を見合うと大きく何度も頷き合った。
「主よ、名を教えよ」
どっちが主かわからないような物言いの執事(仮)に対して、複雑な気分になったけれど、ここでごねても仕方がないので答えた。
「ジルクスだ」
主従の契約をする場合、主はフルネームを教えない。
執事(仮)は、ニヤニヤ笑いからにっこりとした笑みに変えた後、胸に手を当てて言った。
「我が名はヘキサエル=アウインラズライトでございます。ヘキサとお呼びください。もうわかっておられると思いますが、我々は天使族でございます。今後はジルクス様を主として末永くお付き合いさせていただきます」
ヘキサの急な態度の変化について行けずに唖然としていると今度はゴスロリメイド(仮)が話し出した。
「私の名前はテトラエル=アウインラズライト。テトラって呼んでね!ヘキサとは双子なのよ。ヘキサともどもよろしくー!」
テトラは口調そのままに、にっこり微笑んだ。
そして、二人はボクの左手首にはまっている金色のブレスレット……金環に手を伸ばした。
「「こちらを契約の証といたします」」
二人が触れた途端、触れた指先からだんだんと淡い光が消えて、青白い肌に変わった。
金環には徐々に謎の紋様が刻まれていく。ぐるりと一周刻まれると二人の体も光ではなく実体に変わっていた。
二人とも白に近い銀色の髪に金色の瞳、頭の上に天使の輪はないけれど、背中には白い翼が1対ついている。
「やっぱり主様はすごいね!私たち二人分受け入れられる膨大な魔力量!」
「魔力量だけではない。ジルクス様は魔力の質もとても素晴らしいのだ」
もし、二人を受け入れるほど魔力量がなかったら、どういった目に合っていたのだろうか。
二人の会話を聞きながらそんなことを考えていた。
空中の城にいるのはロボット兵であってゴーレムじゃないです(苦笑