09.騎士団で試されました
「……突風……拡大!」
初級魔術の突風を生活魔法で拡大させ、ボクを中心にして放つ。すると周囲にいた騎士団の新米兵たちは気持ちいいくらいにコロコロと転がった。
新米兵たちは立ち上がり、何度もボクに立ち向かうのだが突風の前では無意味だ。体当たり以外の別の方法をそろそろ考えて欲しい。
それを見ていた新米兵の指導官は、額に手を当ててため息をついた。
先日、国王に頼んだ騎士団での訓練のため、騎士団の訓練場に来ているのだが……ボクの強さが未知数ということで、まずは試験をさせられている。
一番最初は、新米兵の中で一番強いと言われている者と戦ったのだが、剣を構えてボクに向かってきたところに土凹を一発放っただけであっけなく終わってしまった。
そこから5人10人と数を増やしていき、今年度の新米兵30人まで増えたけれど、同じ結果だった。
少し離れた場所で、東西南北+中央の5人の騎士団長が話し合っているのが見える。
今日は会議があったらしく、ちょうど5人とも中央の騎士団にいたのだ。
「ジルクス殿下、次は俺と戦っていただこう」
話し合いが終わったようで、先が赤いクジを持った西の騎士団長がボクのところへ来た。
「よろしく頼む」
体育会系のノリでよろしくお願いします!って頭下げたいところなんだけどなぁ。立場的に我慢我慢。
西の騎士団長はボクの真正面に立ち、右手に刃の丸まった練習用の剣を、左手に50cm くらいの丸い盾を持った。
ボクは魔術師っぽいローブに素手だ。一応、怪我をしないように防御の魔法をかけておこう。
「……全防御!」
魔法がかかると中央の騎士団長がボクと西の騎士団長の顔を交互に見て言った。
「お互いにやりすぎないように。では、始め!」
合図があったのだが、西の騎士団長は構えただけで動こうとしなかった。むしろ、ボクをじっと見据えて様子を見ているようだ。
動かないのであれば、狙いやすい魔術から!
「……石礫!」
西の騎士団長の姿が一瞬ブレて見えたかと思ったら、石礫が西の騎士団長の背後にバラバラと降った。
瞬間的に動いて元の位置に戻ったってこと!?
どんだけ速いんだよ……速度上げたらどうなるんだろう。
興味本位もあって、もう一度速度を上げた石礫を放った。
「……石礫!……加速!」
またも西の騎士団長は一瞬ブレて見え、そして石礫は背後に降った。
たぶん、いくら速くしても初級魔術程度では避けられてしまうんじゃないかなぁ。
範囲を広くしてみたらどうだろうか。
「……鎌鼬!」
今度は中級魔術の鎌鼬を放った。鎌鼬は空気の刃で対象を切り裂く魔術で、石礫より攻撃範囲が広い。当たれば、軽傷では済まない……はずなのだが、西の騎士団長は盾を構えて受ける体勢になった。
すると、盾を中心に体全体をカバーする膜のようなものが現れて、鎌鼬を防ぎ切った。
驚いて目を見開いていると西の騎士団長がニヤリと笑って言った。
「そんくらいじゃ傷一つ入りゃしませんぜ?」
慌てて、西の騎士団長を鑑定すると『盾魔防御』のスキルを持っていた。盾を構えて任意のタイミングで魔法を防ぐというもののようだ。
このまま色々な魔法をただぶつけていても盾で防がれてしまう。どうしたらいいんだ!?
ボクがあれこれと悩んでいると西の騎士団長は構えていた剣を鞘にしまった。そして、ふっと消えるとボクの目の前に現れて、素手で頭をガツンと叩いた。
「ジルクス殿下は典型的な後衛タイプなんすねぇ」
ボクは西の騎士団長の動きに全くついていけなかった。
っていうか、全防御掛けてあるのにゲンコツがめちゃくちゃ痛いんだけど!
痛くてその場にしゃがみこんでしまうと、終わりの合図が聞こえた。
「ジルクス殿下、途中から全く攻撃をしなかったのはどうしてですか?」
中央の騎士団長が声をかけてきた。
「盾魔防御のスキルがある限り、どんな魔術を使ったとしても防がれてしまうと思ったら、次に何をしたらいいかわからなくなってしまったんだ……」
ボクがそう答えると中央の騎士団長は目をパチパチと瞬かせて、不思議そうな顔をした。
「ジルクス殿下は、鑑定持ちでしたか。それでしたら、指揮する側へ回った方が良いかもしれませんね」
「少人数で行動するからボクも戦わないと……」
この後、騎士団長たちと戦い方について話し合った。