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08.最終日は移動日です

最終日という名の移動日に、これでもかってくらいお土産を買い、一部は馬車に乗せて残りはこっそりアイテムバックに詰め込んで王宮へ帰った。


その日の夜、ボクは厨房に顔を出した後、父とマイン兄に報告するため、執務室を訪れていた。


「ロングフィールド領より戻りました。領地についての報告書は後日、提出しますね」


そう言ったのだが、父とマイン兄の目は机の上に置いたお土産から離れない。


「報告書についてはわかった。それでこれらはなんだ?」


ボクはにっこりと笑いながら、一つ一つ説明を始めた。


「まずこちらは、ロングフィールド領で採れたブドウを使ったブドウジャムです。これは孤児院の子どもたちが丁寧に作っているところを見学してきました。このジャムは、トーストに塗るだけでなく砂糖やはちみつの代わりに紅茶に入れてもとても美味しいです」


そう言った後、執務室の扉の前で待たせていたメイドに紅茶を用意させた。

ジャムのビンを開けるとブドウの甘い香りが広がる。それをスプーンですくって、用意してもらった紅茶に入れる。

毒味の意味も兼ねて、ボクが先に飲むと父とマイン兄も同じように紅茶を飲んだ。


「これはよいな」


甘党な父であれば、気にいるのは間違いないと思っていた。問題はマイン兄かなぁと思って、ちらりと見れば目を丸くしていた。


「はちみつを入れた時のようなくどさがないな。ブドウの香りが広がって、別の飲み物のようだ」


どうやら気に入ってもらえたようだ。


「もう一つの方は、干しブドウです。こちらは、甘いものと塩がふってあるものと2種類あります。どちらも旅での簡易的な栄養補給……おやつとしても適しています」


2人の視線が2種類の干しブドウに向く。


「別の食べ方として、どちらの干しブドウもパンやクッキーに練りこんで焼くととても美味しいです」


父は甘い方の干しブドウをつまんで食べ、ニヤッと笑った。


「その干しブドウを練りこんだパンは出てこないのか?」

「明日の朝食でブドウパンを出してもらうように料理長に頼んでおきました」


そうすぐ答えれば、嬉しそうなニヤニヤとした笑いに変わった。


マイン兄は、塩がふってある方を食べながら、なにやら考え事をしているようだ。


「これらのものを新しい料理として、茶会や夜会に出してみてはいかがでしょうか?」

「いいですね。私が主催の夜会で出してみましょう」


料理に関しては、マイン兄がすぐに頷いてくれた。


「それとこれは別件なんですが、騎士団で訓練を受けさせてもらえませんか?」

「なぜ急に?」


父とマイン兄は不思議そうな表情を浮かべていた。


「実は果樹園にも見学へ行きまして……ブドウ狩りをさせてもらったのですが」

「ブドウ狩りとはなんだ?」

「料金を支払って、自分でブドウを取って食べるんです。採れたてをその場で食べられてとても美味しいんですよ」

「それが騎士団とどう繋がるのだ?」

「その果樹園を荒らす、イノシシと対峙したんですが倒すのに相当苦労しまして」

「ジルクスが?」


父の表情がだんだんと曇っていく。


「あの、色んな魔法は修得しているって自信持って言えるのですが、技術が足りないと思いまして……」


だんだんと声が小さくなっていくのが自分でもわかる。

今まで魔法に関しては、ボクよりもすごい者はいないだろうと思っていた。それは知識であって技術では無かった。そんな些細なことに気付いていなかったのが恥ずかしいと思えたのだ。


今回のイノシシだって、ボクの魔術は全て避けられて、ミアの魔法で止まったのだ。

ミアを守りながら、旅をするつもりだったのに守られてどうする!


「つまり、ジルは経験を積みたいんだね」

「はい」


父とマイン兄は顔を見合わせて、一瞬ニヤリと笑った。


「許可しよう」


なんか背筋がゾクッとしたような気が!


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