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07.ジャムトーストが美味だったので

宿に4泊もしていると変わった食事にも飽きて、シンプルな朝食を頼んだ。


「ジャムトーストです!」


運んできたのはまだ未成年の10歳くらいの男の子だった。


「そのジャムたっぷり塗るとほっぺた落ちちゃうよ!」


慣れているのだろう。次々に運んでいき、去っていった。

ボクとミアは少年に言われた通り、トーストにたっぷりとジャムを塗った。


「「いただきます」」


鼻をくすぐるブドウジャムの香りに喉がなった。

パクリとかぶりつけば、美味しくて目を見開いてしまった。

無言でパクパクとジャムトーストを食べると、さっきの少年がニヤニヤしながら現れた。


「な?美味いだろ!」

「おいひいです!」


ミアが令嬢とは思えない姿で口いっぱいにジャムトーストを頬張っていた。

そんなミアの姿に少年は少し照れた表情を浮かべている。


「えーっと、このブドウジャムはこの宿で作ってるものかい?」

「いいや、このジャムは俺の友達が……あーいや、孤児院で作ってるんだ。この辺ではすごく美味しくて人気なんだぜ!」


少年は今度はボクの顔を見て嬉しそうに笑った。

元々よく笑う子なのかもしれない。ミアを見て、照れていたのは見なかったことにしてやる。


「孤児院か。食べ終わったら、行こうか?」

「うん!お菓子持って行こうね!」


ミアが嬉しそうに笑った。


給仕の少年に美味しいお菓子屋の場所を聞き、かなりの量を買って孤児院へ向かった。



今回は孤児院の入口を直接通った。

そこは小さいながらもお店屋さんの形をしていた。

売り子をしているのは一番年上の子だろう。計算が出来ないとお釣りが払えないからね。

小さな子も商品を包んでお客のおばさんに渡していた。


「いらっしゃいませ」


年上の子が愛想よく挨拶をしてくれた。


「ブドウジャムと干しブドウはいかがですかー?」

「ここで作っているんですか?」


ミアが興味を引かれたようで次々と質問を投げかける。


「そうだよー孤児院の中でブドウジャムと干しブドウを作ってるよ。別の季節だと別の果物で作ってるよー」

「作ってるところって見れませんか?」

「今日はジャム班が作ってるから、見れるんじゃないかな?」


年上の子がそう答えると広場で遊んでいた10歳くらいの女の子を呼んだ。


「今ってジャム作ってるよな?」

「うん!さっきお姉ちゃんたちがやる気出してたから、まちがいないよ!」

「じゃあ先生に見学者来たって言って連れてってやって」

「はーい!」


女の子はボクたちに手招きをして、孤児院の中へ案内してくれた。


「さっきジャム班って言ってたけど?」


ミアの疑問はまだまだ止まらない。というか、ボクもそれ聞きたかったことだし。


「毎日、ジャム作る班と売り子する班とお勉強する班に分かれてるの。私は昨日、売り子班だったから今日はお勉強〜」


ローテーションでやってるってことか。

ジャム作りは孤児院の資金を増やし、売り子は売買を覚える。お勉強班ってのは文字や体を動かすためかな。

孤児院を出て行った後も、やっていけるようなシステムを作っているわけか。

そりゃ子供たちも元気に見えるわけだ。


ジャム班の元へたどり着くと案内の女の子はもといた広場へ戻っていった。


「ちょうど種と皮を取ったところですから、見ていってくださいね〜」


先生と呼ばれていた助祭のお姉さんがニコニコとしながら言った。


作り方はブドウを煮て、マッシャーで潰して、ブドウの皮を絞った汁を入れて最後に蜂蜜をかけるようだ。

熱いうちに瓶に詰めて蓋をしていく。


慣れた作業なようで次から次へと作っていくのをずっと見ていた。

気がついたら今日の分は作り終わっていた。


「あ、そうだ。ミアお菓子は?」

「お菓子を持って来たのでみんなで食べて欲しいのですが」

「まぁ!ありがとうございます。ここを片付けたら広場でいただきましょうか」


助祭のお姉さんがそう言うとジャム班の子供たちは一斉に喜びの声を上げた。



広場でお菓子を配るとみんな嬉しそうに食べていた。

その子供たちの手は赤く腫れあがっていたり、膝にはたくさんの擦り傷が見える。

鑑定しなくてもわかる。手の腫れはジャムを作る時に作った軽度のやけどだし、足の擦り傷は遊んでいて出来たものだろう。

ミアも同じことに気づいたのかもしれない。イヤーカフが熱を持ち始めた。


【ジル〜……】

【どうしたの?】

【子どもたちの傷、治してあげたい】

【ボクも同じこと思ってたよ。だけど、目立つことになるからなぁ】

【目立つだろうけど……ほっとけないよ】

【じゃあさ、こんなのどう?】


ボクはミアに提案してみるとすぐに納得してくれた。


「みんな、聞いてくれる?」


ミアが広場にいる子どもたちに声をかけるといっせいに振り向いた。


「ジャムを作ってるところ見学させてもらったお礼にいいことを教えてあげる!」

「なになに~?」

「いいことってー?」

「みんな、清潔クリーンの魔法って使える?」


ミアが質問すれば、年上の子たちはみんな使えるといい、小さい子たちは何のことかわからずきょとんとしていた。


「怪我をした時にね、清潔クリーンの魔法を傷口にかけると治りが早くなるんだよ」


その言葉に年上の子たちもきょとんとしだしたのだが、教会の助祭たちは目を見開いて驚いているようだった。


「そ、それって本当ですか?」


助祭のお姉さんが驚きつつも聞き返してきた。


「ボクとは診療所へ見学に行ったので、本当ですよ」


ニコニコと答えると助祭のお姉さんは少し顔を赤らめてしまった。この笑顔、もう少し控えないとミアが怒るんじゃ……。ちらっとミアを見ると気付かれていないようだった。アブナイアブナイ。


「これからは、手洗いうがい清潔クリーンですよ!」


ミアは明るい声で子供たちにそう教えていた。


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