06.閑話:果樹園のおじさん
すごく短いです
領都から、見慣れぬ馬車が来た。誰だろうと思ったら、商人の息子と娘で修業の旅に出ているんだとか。
ここらで仲良くなっておいて、将来取引してくれればいいなと思ってブドウを食わせてやった。
娘の方はえらく喜んでいてな、見ているこっちまで嬉しくなっちまった。
ブドウ狩りなるものを教えてもらったり、ずっと捕まえられなかったでかいイノシシを退治してもらったりとこっちのが世話になったっていうのに、息子の方が一歩も譲らず落ちたブドウを全部買い取っていったな。
あれは、将来が楽しみなやつだろう。
そんなことがあってから半月もしないうちに、見知らぬ馬車がよくうちに来るようになった。
なんでも貴族お抱えの商人だそうで、大量に買い付けていった。
その次にきたのもどこぞの商人で、そいつは王都から来たんだと。
商人だけじゃない、今度は貴族まで来た。
「ここでブドウ狩りができるんですって?」
なんか、えらくキレイな黒髪のお嬢ちゃん……いや、貴族の娘さんがお友達と来たって感じだな。
「一応できます。料金をいただいて好きなだけ食べてもらって、残したら買い取ってもらうってやつですが」
「ええ、知ってるわ。取る時も房ごと取らないといけないのでしょう?」
「はい、房ごと取らずに粒を取ったら、それも買い取りしていただきます」
「それじゃ、人数分の料金を支払うわ」
貴族の娘さんがそう言うと、執事のようなきっちりした服装のじいちゃんが人数分金を払った。
しっかし、貴族の娘さんたちドレス着てるんだが、いいかね。
しばらくすると食べきれなくなったようで、娘さんたちは取った分を買い取って、さらにお土産まで買って帰っていった。
その数日後は、貴族の男たちがこぞってきた。次は夫婦だか恋人同士だかが来た。
数日ごとにブドウ狩りをしたがる貴族やら買い付けに来る商人やらがやってくる。
おかげでうちの果樹園は潤った!剪定や整備やらに金をかけるために人を雇ったり、農具を変えたりもした。
旬の時期が過ぎて、貴族や商人が来なくなった。
少しだけ暇ができたからだろうか。あの商人の息子と娘を思い出した。
「ああ、自慢させてくださいねって言ってたか」
あの二人は本当は商人なんかじゃなくて、どっかのすごいお貴族様だったのかもしれんな。