03.聖女と呼ばないでください
翌朝、宿の食事を食べた後、領都内を散策することにした。
「どこへ行こうか?」
「まずはあの一番目立つ建物に行ってみるってどうかな?」
ミアがそう言って指さした場所は、領都の中央に建つ古くて大きな建物だった。たぶん、場所や造りから考えて……鑑定してみれば、思った通り領館だった。
「あれは領館だよ。手続きしないと中には入れないと思うけど、向かってみようか」
キョロキョロと周囲の建物や人の動きを見ながら歩いていると教会と孤児院が目に入った。
なんとなくボクとミアの足が止まった。
ミアの顔を見れば、悩んでいるような迷っているような表情を浮かべていた。
「……えーっと、寄っていく?」
ボクがそう声を掛ければ、ミアは目を彷徨わせながら言った。
「あ、でもお菓子持ってきてないから……」
実はミアは、教会でお祈りすることが好きではない。王都での聖女様候補の騒動があってから、教会へ行くのは避けたいようだ。隠蔽しているとはいえ職業:聖女だもんね。バレたら大問題だ。
それでもミアは教会に通う。それは教会の隣に立つ孤児院へ行きたいからだ。はっきりと言われたことはないけれど、ミアは子供たちと触れ合うのが好きなようだ。
「じゃあ、やめとく?」
「ううん、様子を見るだけでも……ほ、ほら、孤児たちの待遇も見たいし、ね?」
「そうだね。そういうのも確認しないとね」
ミアの返事にほんわかとした気持ちになり、つい微笑んだ。
教会へ入りお祈りを捧げた後、孤児院を覗いてみれば、子供たちは元気いっぱい遊びまわっていた。
「元気そうだし、たぶん大丈夫……だよね」
ミアは心配そうに子供たちを見ている。本当に子供が好きなんだなぁ。
「時間があったらまた来ようか」
「うん!その時は、お菓子持っていきたい」
教会から離れると今度はいい匂いのする方へと自然と足が向いた。
いい匂いの元……それは果物屋に並ぶフルーツだった。
店の半分がブドウで埋まっており、残りは栗、アケビ、ザクロ、イチジクなどの山で採れる果実が並んでいた。
「うわぁ、おいしそう!」
ミアの声で果物屋の店主が振り向いた。
「旬のものばかりだから、どれもおいしいよ」
粒の大きいブドウは、食べごたえがありそうだ。
「このブドウは皮ごと食べられるんだよ」
「へ~そうなんですか。このブドウはどこで採れたものなんですか?」
「これは、あの山の麓にある果樹園で採れたものなんだ」
店主が、指した方角には山岳地帯が見える。今から向かってもすぐ帰らなければならないくらいの距離のようだ。
「他の果物はどこで採れたものなんですか?」
「それはな~……」
店主は嬉しそうにボクの質問に次々答えてくれた。一通り聞き終わった後に、ブドウを一房買って店から離れた。
巨峰のような大きなブドウを口に入れると瑞々しくて甘い果汁が口の中いっぱいに広がった。
予想していた通り、一粒でも十分なほど食べごたえがある。
「明日はこのブドウが採れる果樹園に行ってみようか」
自然とそうつぶやいていた。
「いいね!」
ミアは次々とブドウを口に入れながらそう言った。よほどブドウが気に入ったのだろう。
「明日の予定も決まったし、もっと他のお店も見て回ろう」
「商人の娘と息子だもんね!」
「将来取引先になるようなお店も探さないとね」
ミアと笑い合いながら、他にも気になるお店に足を向けた。