01.旅へ出るには理由が必要です
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ミアが魔法学院を卒業して、数日後、ボクは父の政務室にいた。
「陛下に一つ提案がございます」
臣下のように丁寧な口調で話しかけると、父はとても嫌そうな顔をした。
ボクがそういう風に話しかける時はだいたい厄介ごとだからだろう。
「……聞きたくないが言ってみろ」
「ありがとうございます」
軽く頭を下げて話を続けた。
「あちこちの領地を見て回りたいんで、許可ください」
「そんなもの簡単に下りるわけがないだろう!」
あ、やっぱりそうですよねぇ。
「陛下は『お忍び』というのをご存知ですか?」
この国の視察というものは、堂々といついつに行くから準備をしておけというもので、視察に来る人にあらかじめ見せたいもの、見せてもいいものを準備しているのだそうだ。
領主が善人であれば、その視察の方法はいいのだろう。時間の都合もつけやすい。
でも、悪人であったなら?悪い部分は隠すように動くに違いない。
その悪い部分は領民から王宮へ向けた嘆願書や教会への訴えなどから発覚していくパターンが多いらしい。
「知らん。オシノビとはなんだ」
「『お忍び』というのは、身分の高い人が身分を隠して外出することです。陛下も時々、変装して王都へ行ってますよね?」
「……」
沈黙は肯定ってことで。
変装しているところを見たわけではないけれど、父は意外に平民よりの意見を出すことが多いので、現場を見ているのだろうと思っていた。
「それを東の国の言葉で『お忍び』って言うんです。それを領地の視察でもしませんか?」
父は顎と口を隠すように手を当てて、考え出した。
日頃、王都を自分の目でこっそりと見て回っているのなら、『お忍び視察』がアリだってことは理解してくれるだろう。
問題は、第二王子のボクが『お忍び視察』をしに行くことにあるのかもしれない。
ここは押せ押せ!!
「ボクであれば、成人したばかりの若造ですから、領民たちも気を抜いて普段通りの姿を見せてくれると思うんですよ。それにボクには変装の魔法もありますから!貴族たちにだって、気付かれません」
「ふむ」
父はまだ、納得のいかない表情だった。
「それとですね、あちこちの領地へ行けば、新しい魔法を思いつくかもしれないなぁと思いまして」
「……それは良いな」
むしろ、視察よりもこちらのほうがボクの目的でもある。
様々な場所へ行けば、ボクの知らないスキルや魔法を覚えている人に出会えるだろう。
それを覚えていくのもよいし、その土地で必要そうな魔法を考えるのもいい。
父は先ほどより心が揺れているようで、ボクのこれまでの成果を口に出した。
「最初に発表した美肌魔法は、今では国内だけでなく国外にまで広まっているようだしな。アレは世の女性たちがこぞって求めるものであったようだな……。その次に発表した魔術を生活魔法のように使うという提案、加減の調整は難しいものの、あれは特に薬師たちが大幅な時間短縮になると喜んでいたな」
授業中に鉱石を中級魔術の岩破壊を使って粉砕したという話をしたら、そのまま提案したという形になって、薬師たちに広まった。
他に薬草を乾燥させるのに中級魔術の蒸発を使ったり、出来上がった薬品を瞬時に冷やすために中級魔術の冷却を使ったりと、薬学の授業で散々使ったのが広まっているらしい。
ただし、加減や範囲指定といった細かな動きに慣れていないと、薬草以外のものまで乾燥させたり、冷えすぎて凍ってしまったりするので、練習は必要なようだ。
どうして、攻撃にしか使えないと思い込んでいるのかって思っていたのだけれど、この細かな動きをできる人があまりいなかったのが原因かもしれない。
「そういった有益な魔法や提案を思いつくために、見聞を広めたいなと」
「なるほど、そういうことであれば話を通しやすい」
こうして、お忍び領地視察兼新魔法開発の旅の許可が下りた。
もちろん、ミアを同行者として連れて行く。
ぞろぞろと大勢で動いて回っていたらお忍びにならないので、護衛は王族専用の護衛官『影』を借りることにした。
そして、ミアを領地視察に同行させるという内容の手紙を、勅命としてスウィーニー侯爵に送ってもらった。
勅命だったとしてもすごい反発されるだろうなぁと思っていたのだけれど、ミアが何かを言って黙らせたらしい。
一体何を言ったんだ……。
1章と2章を修正中ですが、今のところ内容に変更はないです。もし大幅に変わる場合があれば、あとがきや活動報告でお知らせしたいと思います。
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今後もジルとミアをよろしくお願いします!