06.ボクの腹黒さは父譲りだと思います
治癒術を使ったことで、隠蔽していた職業が露見してしまった。治癒術師っていうものだ。
ゲームでヒーラーやってたのもあって、攻撃することよりも回復することのほうが興味を引かれてしまって魔法書の治癒術の部分を念入りに読んだのが役に立ったようだ。
『聖なる力を持つ王子』なんて持ち上げられても、何も嬉しくない。
それって君主たる力はないって言ってるようなもので、傀儡にするつもりだろう。
傀儡にしたい連中にはちょうど良かったようで、王位継承争いの第二王子派がなくならなかった。
結局、母がいてもいなくても変わらないとは皮肉なものだ。
水面下では第一王子派と第二王子派で何かやってたみたいだけれど、ボク自身にはこれといって何事もなく2年が経った。
マイン兄と同じように王立学院へ入る年齢…10歳になったのだ。
本人の希望を無視して王位継承争いをしている連中と離れられるのは心底嬉しかった。
王宮を離れる際、国王と一対一で話しをする機会ができた。
「次週から王立学院へ行くそうだな。しっかり勉学に励むように」
「はい」
「何か話したいことがあれば、今のうちだぞ」
「……」
考えていることまでお見通しなのだろうか。少し目を泳がせてしまったけれど、言いたいことを言うことにした。
「それでは、言わせていただきます。王位継承の件ですが」
「ちょっと待て」
話そうとしたのに、国王は止めた。
えー…って気分だったけれど、国王はブツブツと何か言ったあと柏手を打って、唱えた。
「……隔離」
これは周囲と指定した範囲を隔離する魔法で、会話を盗み聞きされないようにするもの。
国王は発動言語の前に事前詠唱と手と手を合わせる行為を行っていたけれど、ボクだったら発動言語だけでもできる。もしかしたら無詠唱でもできるかもしれない。今度試してみよう。
「続けてよいぞ」
執務室は防音ではないので、スキルを使ったってことかな。
「王位継承の件ですが、ボクは王太子になるつもりはありません。マイン兄がなるべきだと思っております。マイン兄は君主向きスキルをたくさん持ってます。ほとんどは隠蔽しているようですが、『賢君』まで持ってるんですから。」
そこまで言うと国王が驚きの表情とともに、状態:驚愕になっていた。
隠蔽せずに驚愕を表示させているのは珍しい。
「ジルクス……お前は他人のステータスがはっきりと見えるのか?」
特に隠しているつもりもなかったので、はっきりと答えた。
「はい、はっきりとわかります。他人に見える表示上のものも隠蔽しているものも。職業も年齢も性別も所持スキルも。状態も見えます」
急に国王は、くはははは…と笑い出した。ひとしきり笑った後に言った。
「まさか、『鑑定』持ちとはさすがに驚いたな。それに気が付いたのはあの熱を出して寝込んだ時か?」
「はい。正確には体調が良くなった後の晩餐の席です」
国王はニヤニヤとした笑いを浮かべたまま顎を片手でさすった。
「他人のステータスが見えるというのはある意味、『賢君』と同等かもしれんぞ? それでも、王位はいらんというのか?」
「いりません。というか面倒くさいです」
ボクがきっぱりというものだから、またも国王は、くはははは……と笑い出した。
「だが、そのまま腐らすのはもったいない。王弟して、カーマインを助けて進むといい」
「もともとそのつもりです」
にっこりと笑うと国王はさらに笑った。