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38.余裕のある男なんて幻想でした

(2/2)

長い沈黙を破ったのはミアだった。


「あのね、ジルの言葉すごく嬉しかった。だけどあまりにも急すぎて驚いて逃げちゃった。ごめんなさい」


ミアはその場で頭を下げてきた。


「きゅ、急だったよね。ボクのほうこそごめんね」


つられてボクまで謝ってしまったが、悪いことをしたつもりはない……。


「私もね……ジルのこと好きって気が付いたんだけど」

「ホントに!?」


少し声を大きくして立ち上がりかけた。ミアは驚いた顔をしていた。


「じ、ジル…ちょっと落ち着いて、待って」


好きだって言われて嬉しくてニヤニヤしてしまった。とりあえず、椅子にきちんと座りなおす。


「ごめん、嬉しくてさ。断られるかもしれないと思ってたから」

「あー……うーん……場合によっては断るというかー……」


断る……だと!?

今度は口を開けて何も言えなくなった。


「だ、だからーちょっと待って!最後まで聞いて!」


悲壮感が漂いすぎていたのかもしれない。ミアの言葉にコクンと頷いた。


「ジルのことは好きなの、大好きなんだけど。魔法学院を卒業したら旅へ出るんでしょう?」


その言葉にもコクンと頷いた。


「もし、こ、恋人になったとしてもさ、置いていかれるのって嫌だなって」

「え?平日だけ国内を回って、休息日はミアと会えるようにするよ?」

「それでも嫌だなって」

「ええ!?」


ミアは初めのうちは言い淀みながら話していたのだが、だんだんとはっきりと気持ちを話し始めた。


「ジルが旅行にいってきた話を聞かされるのが寂しいなって思ったの。ジルが旅先で私よりいい人と出会うかもしれないし……。どうせなら一緒に行って、ああだねこうだねって話をしたいの。同じものを一緒に見たいの。あとで聞かされるのが嫌だなって思ったの。ずっと一緒にいたいって私も思ってるから、旅にも一緒に行きたいなって」


つまり、ミアはボクのことが好きで一時でも離れるのは嫌で、すべてを共有したいってことかな。

それって、めちゃめちゃ愛されてるってことかな。


ミアの話を聞いていくうちに、ボクの顔が熱くなっていくのがわかった。

ああ、きっと真っ赤になってるに違いない。


「そんなことで悩んでいたのか」

「そんなことって大事なことだよ!?」


ボクは顔が赤くなりつつも、ニヤニヤとした表情になっていた。

反対にミアは少し怒った顔になっている。怒るような話じゃないよ!


「それなら、ミアが魔法学院を卒業してから一緒に旅に出ればいいってことだろう?」

「そうだけど、2年もあるんだよ。2年もジルを縛り付けるのもどうかなって」

「たった2年じゃないか。その間に旅に出る準備をすればいいんだよ。新魔法たくさん考えたりさ?」

「準備に2年とか長すぎでしょ……」


普通だったら2年って長いのかもしれない。

でも、ミアのいない2年とミアのいる2年なら、後者だろう?

長い人生を考えれば、少しくらい旅に出るのが遅くなっても構わない。


それよりも、ミアも一緒に旅してくれるということのほうが重要だ。


「ミア~返事を聞かせて?ミアが魔法学院に入って卒業するまでボクは旅に出ない。卒業したら一緒に旅に出よう。ずっとそばにいるから。だから、ボクと付き合ってください」

「……!」


ミアは口をぐっと引き結んだあと、大きく頷き、決意の込められた瞳を向けて言った。


「ずっとそばにいてね。離さないでね」


お互いに顔を赤くしながら見つめ合っていると、周囲から拍手が聞こえた。

って、話きかれてるじゃないかー!

しまった……閉鎖も隔離も使ってなかった。いや、ミア相手だと使えないんだった。ならば、念波とかもしくは日本語で話すとかあっただろうに……余裕なさすぎだろう!


ショートケーキと紅茶を持ったウェイトレスがすぐに現れて、テーブルに置いていった。


「こちら、マスターからの差し入れですって!」


ケーキと紅茶まで準備されていたとか!

ミアと2人で顔を真っ赤にしながら、おいしくいただいたけどさ……。





あとでウェイトレスとマスターに話を聞いてみたら、この1年半の間ずっと成り行きを見守っていたそうだ。

「うまくいってよかったね。おめでとう!」って言われて、「ありがとうございます」って答えるしかなかった……。





やっとくっついた!

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