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31.うやむやにしました

またしても、教会から呼び出された。

教会というよりもあの太った司教から……だ。

別に呼び出しに答える必要もないのだけれど、このまま放置しておくわけにもいかない。

諦めて、休息日にミアとともに教会へ向かった。


前回と同じように祈りを捧げてから、離れの会議室みたいな場所へ通された。

前回と違うところと言えば、聖女様候補ご一行の4人がボクとミアの顔を見ようとしないことかな。


「ようこそおいでくださいました。聖女様候補のミア様……と従者のジル」


ぴきっという音がした。ゆっくりとミアの顔を見れば、怒ってる……。

イヤーカフがすごい勢いで熱を帯びた。


【ジル!不敬罪にしよう!言っていい!?】

【ボクがちゃんと言うから大丈夫だよ】


念波でミアの怒りを制して、言った。


「ボクは従者ではないよ」

「ふんっ!では何だというのだ!」

「穏便に済ませたかったんだけど、仕方ないよね。ちゃんと自己紹介するとしよう」


そう言って、立ち上がり目を据わらせたまま、見渡して言った。


「ボクの名前は、ジルクス・ローズフォード・セリーヌ。セリーヌ王国の第二王子だって言えばわかるか?」

「そ、そんなはずはない!殿下がこんな場所に来られるはずがない!偽物だろう!」

「ジル様にそんなこと言うなんて!不敬罪よ!」


念波だけでは、ミアの怒りは収まらなかったようだ。まぁ、そこまで収めたつもりもないけど。

ミアの言葉を聞き、ジャイル司教は青ざめていった。


「王族に対して、どうして頭を上げているんだい?ジャイル・フォン・ルートベルト」


フルネームで呼ばれたジャイル司教は、ガタガタと震えながら頭を下げた。

他の司祭や助祭、聖女様候補も頭を下げた。唯一、ミアだけが頭を下げなかった。

というより、下げようとしたところを手で止めた。


「まぁ、顔を上げていいよ。下を向いたままだと話しづらいしね」


ボクの声でそろそろと全員が頭を上げた。

先ほどまでの威厳のある威圧的な態度が引っ込んだ。


本当は、教会関係者ってここまで王族に対して畏まる必要ないんだけどね。

貴族出身のジャイル司教の場合、身に沁みついた貴族としての常識通りに動いてしまうんだろうね。

他の5人は平民だから、そこまで慌てたり焦ったりしていなさそうだ。

っていうかさ、悪いこと何もしてなければ、堂々としていればいい話だよね。


「それで、呼びだすほどの話って何?」


ボクは椅子に座ったあとに言った。


「は、はい。ミア様が先日、養護院の女性に最上級治癒術を使ったと伺いまして……」

「それ、誰が言ったの?」

「あ、いえ……誰も言ってはおりません」

「さっき伺ったって言ってたのに、誰も言ってないの?」

「あ、いえ……その、子供たちがそんなようなことを言っていただけでして……」

「ふーん、それで?」

「女性の肌を元通りにしたのがミア様であれば、候補ではなく聖女様にと……」

「ああ、あの女性の肌をキレイに(・・・・)したのはボクだよ」

「……はい?」


ボクの言葉に、目が点といった感じだな。

事実、もちもちすべすべのキレイな肌にしたのはボクだ。嘘は言っていない。


「ボクが考えた新魔法が王宮で流行しているんだ。それをその女性に掛けただけだ。信じられないなら、王宮に問い合わせてみるがいい」

「は、はぁ……」

「ミアじゃなくボクがやったんだけど、ボクが聖女にでもなるのか?」


くすくすと笑ってみれば、ジャイル司教は視線を彷徨わせていた。


「ボクはミアの魔法の先生をしているんだけれど、ミアが聖女ならボクは何なのだろうねぇ?」


さらにくすくすと笑いながら話しかければ、ジャイル司教の視線は床へと向いた。


「そろそろはっきりさせたかったんだ。ミアを聖女様候補から外せ。お前の体裁の道具にするな」


はっきりと言うと、ジャイル司教は床を見たまま、頷いた。



こうして、ミアは聖女様候補から外れた。

あのまま聖女になっていたら、きっとジャイル司教の出世の駒として利用されただろう。

まぁ、まだアデラインとクリスティーナが残ってはいるが、その2人が聖女になれるかどうか。




聖女様候補騒動〆

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