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29.月に1度くらいは孤児院へ顔出します

ミアへの恋心を自覚して、初めての家庭教師の日。普段よりも余裕を持ってティールームへ行き、ミアが来るのを待っていた。

待っているだけで期待が膨らんでしまう。

早く会いたいなぁ。でも、準備を急がせたいわけではない。

今日はどんな格好をしてくるんだろう。

想像だけで顔がニヤつきそうだ。必死でそれを抑えているとミアがやってきた。

今日は大人しめの紺色のワンピースを着ている。両肩に花のモチーフがついているのがいいアクセントだ。

よく見れば、スカートに少しキラッとした紺色の糸でたくさんの刺繍がされている。


「おはよう、ジル」

「おはよう、ミア」


ミアは毎日の寝る前の念波での会話のおかげもあって、通常の会話でも敬語を使わなくなった。

にっこりと微笑むとミアが椅子に腰かけた。


「今日は孤児院にすぐ行くーでいいんだよね?」

「うん。たくさんクッキーを焼いてきたから、みんなにあげるの」


昨日の夜の念波で、孤児院行きは決まっていた。

1か月に1度くらいだが、こうやって孤児院へ顔を出している。

子供たちに懐かれたというのもあるし、孤児院に行くついでに教会によるというのもある。

未だにミアは聖女様候補のままなのだ。

家名まで見つけ出し、ついにはスウィーニー侯爵家にまで聖女様候補になったという通知が届いたが、侯爵はそれが届いたと同時に闇に葬ったらしい。

ミアの父はゴスロリを作っちゃうくらい、ミアを溺愛しているからね。手放したくないんだろうなぁ。


「ジルの分も作ってきたよ。この間のシュークリームのお返し」


そう言って、可愛くラッピングされた小袋を渡してきた。

ボクはそれを両手で受け取り、その場で固まった。

今食べるべきか、後で食べるべきか……。


「どうしたの?」


ミアの声でハッとした。


「ううん、今食べようか後で食べようかで悩んだだけなんだ。ありがとうね!」

「ジルって意外と食いしん坊だな~」

「うっ」


5歳の金髪碧眼の子豚姿を思い出してしまった。ああなってはならない!

甘いものを食べた時はいつも以上に体を動かすようにしている、大丈夫なはずだっ。


「この後、孤児院でも食べられるし寄宿舎で食べたら?」

「そうするよ……保護プロテクト


クッキーが割れてしまわないように、小袋に保護の魔法をかけてそっとカバンにしまった。

ミアは呆れた表情を浮かべていたけれど、大事にしたいだけであって食い意地が張ってるわけではない。


紅茶と本日のおすすめスイーツのティラミスをいただいてから、孤児院へと向かった。




孤児院に着いたが、今日は珍しく誰も出迎えに来なかった。

中庭まで行くと出迎えのない理由がわかった。

聖女様候補であるアデラインとクリスティーナが子供たちの怪我を治癒していたためだ。

少し離れた場所に助祭であるカナリアとリゼットの姿も見える。

カナリアはアデラインの補佐役、リゼットはクリスティーナの補佐役を兼任している。

この流れだと、ミアの補佐役はボクってことなのかなぁ。


ボクとミアの姿が見えると子供たちが騒ぎ出した。


「ジル兄ちゃん、ミア姉ちゃんいらっしゃい~!」

「今日は何をもってきたのー?」

「いっしょにあそぼう?」


子供たちはボクたちの方へ走りだそうとしたのだが、それをアデラインとクリスティーナが制した。


「まだ治癒が終わっていないから、終わるまで待ちなさい」

「もう少しで終わりますからねぇ」


2人の声で子供たちは状態異常:怯えになり、びくっと反応して止まった。

この2人もしくはどちらかが子供たちに対して何かをしているということか?


アデラインとクリスティーナは子供たち1人ずつに治癒ヒールを掛けて回った。

人数は半々に分けて行っているようで、一見すれば効率的だ。

だけれど、競って早く治そうとしているようにも見える。


すべての子供に治癒ヒールをかけると、2人とも大きく息を吐いた。


「も、もういい…ですか?」


一番年長の子供がそう言うと、アデラインとクリスティーナは2人で顔を見合わせて、そっぽを向いた。

その様子は子供たちにとって、肯定の意味のようだ。

子供たちも大きく息を吐くと、ボクとミアの周りに集まってきた。


「おにいちゃん、きょうはなにするの?」


一番小さな女の子が来たので、しゃがんで目線を合わせて話す。


「何をしようか?何がしたいかな?」

「う~んっとねぇ……」


小さな女の子は少し考えてから、孤児院の向こうにある養護院を指さした。


「せんせいのいたいもなおしてくれる?」


予想と違う言葉が出てきて驚いた。子供たちにとっての先生とは、養護院の大人たちのことだ。

先生たちは自分に怪我があっても、あまり言い出してくれない。

いつも一緒にいる子供たちが気づくくらいには、ひどい怪我をしているのかもしれない。

どうしようかと思っていたら、耳についているイヤーカフが熱を持った。


【ジル~先生たちの様子、見に行こう?】


ミアからの念波を受けて、頷いた。


「案内してくれるかな?」

「うん!」


小さな女の子を抱きかかえると、他の子が羨ましそうに見てきた。

あっちだよーという声と指し示す方向へと進んでいった。

ボクとミアだけが行くものだと思っていたら、アデラインとクリスティーナ、カナリアとリゼットもついてきた。




祝50話目!

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