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05.兄がいなくなった途端にコレですか

 あれから3年……マイン兄が王立学院へ入学した。10歳になると王族貴族は必ず王立学院へ入るのだ。

 たしか、3年間マナーや教養を再確認し、剣術魔術の能力を見出し、卒業後は自分の身にあった学校へ進むのだそうだ。


 マイン兄が王宮から離れ、寮生活を始めると母が動き出した。

 お茶会を何度も開き、第二王子ジルクスがいかに素晴らしいかを広め始めたのだ。

 ただのお茶会と思うことなかれ、女性のネットワークはどこの世界でもすごいのだ。

 お茶会の次は夜会が、夜会には男性も参加する。そこでも第二王子ジルクスがいかに素晴らしいか……。


 最初のうちは連れていかされたのだけれど、勉強の時間が減るのは困るとか理由をつけて辞退したら、「いかに素晴らしいか」に付け足されて、どんどん面倒なことになった。


 さくっと言えば、マイン兄がいない間に第一王子派閥と第二王子派閥が出来上がったのだ。いや、もしかしたらもともとあったのかもしれないけれど。


 生まれる前、日本で普通の女性だったのだ、急に立ち回りがうまくいったりするわけがない。

 母を止めることも出来ず、ただ流されていくしかなかった。

 何度か止めようと試みたのだが、どうしてもうまくいかなかった。

 相談する相手もいないというのが問題だったのかもしれない。



 そんな日々がすぎたある日、晩餐の席でシェライラ様の頭上に状態:呪いがついていることに気が付いた。しかも隠蔽状態だった。

 ボクが知るかぎり呪いそうな人なんて、母しか思いつかない。ちらりと横に座っている母を見れば、薄く笑みを浮かべていた。

 これって、ほっといたらシェライラ様が死んじゃうのかな。


 ゆっくりだけど、確実にシェライラ様の命が削られていった。どんな呪いなのかはわからないけれど、日に日に顔色が悪く、体が細くなっていった。一月もしないうちに、食事の席にシェライラ様は現れなくなった。


 頭の中で警鐘が鳴り響く。

 命が削られていくのを目の前で見ていたのに、何もしてない。

 そんなの許されるの?

 この世界じゃ何もできないと思ってるの?

 ゲームでは誰も死なせないヒーラーやってたんじゃないの?

 何もしていない、何もしないことも罪だってわからないの?


 晩餐の席だったけれど、走り出してシェライラ様の部屋へ向かった。

 8歳の子供に何ができるとか、側室なのにとか、そんなものどうでもよかった。

 無理矢理部屋に押し入って、ベッドの上のシェライラ様を見ると枯れ木のようにやせ細りうつろな目をしていた。

 それでも、視線を合わせて微笑んでくれた。微笑んでくれたように見えた。


 この人、死なせたらいけない人だ……と急に思った。

 シェライラ様の額にそっと左手を置き、コトバを紡いだ。


「……解呪ディルペルカース


 自然と出てきた言葉は、魔法書に書かれていた治癒術だ。


 シェライラ様の身体が淡い光に包まれる。光に包まれると身体からたくさんの真っ黒な文字が溢れて宙に消えていった。すべての文字が身体から抜けると淡い光は消えていった。

 シェライラ様の額から手を離し、ステータスを見れば、状態:衰弱になっていた。

 呪いは消えたけれど、弱った体はすぐには治らない。

 でも、衰弱のまま放っておけば、また母が呪うかもしれない。

 もう一度、シェライラ様の額にそっと左手を置いた。もう立場とかどうなってもいいや。


「……大治癒エクストラヒール


 体の中からごっそりと何かが抜けていく感じがした。きっと魔力の消費が激しいものだったのかもしれない。

 自分のステータスをちらっと見ると残りの魔力量が1割になっていた。

 大治癒エクストラヒール程度で、魔力量やばくなっちゃうとは情けない。

 シェライラ様の額から手を離し、じっと見れば、状態:驚愕になっていた。うつろだった瞳にも光があった。ついでに目をパチパチさせていた。


「今のは、ジルクス王子がやっ……たんですよね?」

「……はい」


 小さく頷きつつ答えると、シェライラ様は起き上がり、頭を下げた。


「……ありがとうございます。お礼の言葉だけじゃ足りないわ。どうしましょう!」


 そうだ、シェライラ様ってもともと発言が可愛らしい方だった。

 なんて思っていたら、晩餐の席の方から悲鳴が上がった。母の声のような気がする。気がするっていうか間違いないっていうか。


 母の叫び声……呪いって解除すると呪った本人に返されるものだよね……。

 一月分の呪いを一身に浴びたら……途中で考えるのをやめて、急いで晩餐の間へ向かった。

 シェライラ様も一緒に向かってくれるようだ。



 晩餐の席では、母上が悶え苦しんでいた。

 真っ黒い呪いの言葉が次々と母上の身体の中へ入っていく。

 視認できるほどの呪いの言葉たちだ。


 それを国王が静かにじっと見ていた。

 周りにいた侍女や騎士たちも何もできずに、ただじっと見ていた。


 ボクは頭の中が真っ白になった。

 こうなることを予想していなかったからだ。


 戻ってきた僕と一緒に入ってきたシェライラ様の姿を見た国王は、驚くこともなく大きくため息をついた。



 結局、正妃である母上は呪い返しを受けたまま、懲罰塔へ入れられた。回復もかけてもらえず、ただただ苦しんで死ぬのだろうか。


 自業自得なのかもしれない。

 でも、ボクを産んでくれた母でもある。


 複雑な気持ちになった。


 ただ母との思い出が、毎日呪いの言葉を聞いていたことしかなかったので、その気持ちは遠くに追いやり、減刑を求めたりはしなかった。

 

 国王は見抜いていたように感じた。正妃が側室に対して呪いをかけていることを。


 いや、気づいてたんなら、苦しむ前になんとかしてやれよ!って思ったりもしたけど、なんとかしてたら、母上を捕まえることはできなかっただろうし、しかたなかったのかもしれない。

 理解はしたけど、納得はできなかった。


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