28.2年生というか最終学年です
約2ヶ月ほどの休みが終わり、進級した。
ボクは2年制の2年生になった。つまり、今年卒業する。
ミアは王立学院の最終学年になった。
卒業後の進路について考えなくてはならない。
それはボクだけでなく、クラスメイトも同様で毎日のようにその話題で盛り上がっている。
一部のクラスメイトたちは、宮廷魔術師や宮廷治癒師の試験を受けて、合格すれば王宮に仕えるらしい。
一部のクラスメイトたちは、王宮とは離れていたいらしく、市井に混ざって診療所に勤めたりするらしい。
一部のクラスメイトたちは、お金のある貴族の子息令嬢たちであり研究に没頭するらしい。
他には、魔石ハンターになるとか、結婚するとか様々なようだ。
ボクは?
ボクはどうするんだろう。
ボクは王太子の座を辞退しているし、すでにマイン兄が王太子になっている。
いつかマイン兄が王になった時、王弟として支えていけたらいいなぁとは思ってる。
そこには、いつかって言葉がついてしまう。
今はまだ、そんなことしたいと思えない。
じゃあ、今は何がしたい?
この世界を知りたい。
テレビや旅行雑誌がない世界だと、どこにどんな景色があるかどんな食べ物があるかなんてわからない。
見たことないもの食べたことないものがたくさんある。
情報過多だった世界から希薄な世界へ来たんだし、知りたいと思っても仕方ないじゃないか。
そうだな。
世界中を旅して回ろうかな。
お金はきっと魔法があれば、稼いでいけるだろうしね。
ミアも誘って、一緒に行こう。
そう思った途端、胸が熱くなった。
ああ、そうか。そうなんだ。気付いちゃったよ。
この感情に覚えがある。これは恋しいだ。
ボクはミアのこと、好きなんだな。
共通の話題がある仲間としてではなく、家庭教師という先生と生徒ではなく、男女という関係の恋愛感情の好きなんだな。
自覚してしまうと、急にミアに会いたくなった。
今頃、何をしているだろうか。
居ても立っても居られなくなり、午後の研究の時間を自主休講にして魔法学院を出た。
王立学院の午後の授業が終わる前に商業区へ行き、ちょっとしたお菓子とピンクのガーベラを一輪買った。
代行便は送っていないし、念波もしていない。約束なしの状態で会いに行ってもいいのだろうか。
少し不安に思ったが、手元のお菓子とガーベラを見て笑ってしまった。
ピンクのガーベラの花言葉は「熱愛」だ。こんなにはっきりしたものを用意しておいて、いまさら怖気付くとは……。
午後の授業の終わりを告げる鐘が鳴った。
受付を通り、ミアが通るであろう校舎と寮の間に立っていた。
しばらくすると、校舎の中にいるミアが見えた。
嬉しくて顔が笑んでいたのだが、それすぐに消えた。
よく見れば、ミアの周りには男子生徒が多いのだ。女子生徒もいるにはいるが、1:3といった割合だろうか。
ミアは、はっきり言って美少女だ。艶やかな長い黒髪に神秘的なアーモンド型の紅色の瞳、鼻筋もはっきり通っていて肌も白い。
そして、良いところのお嬢様だ。スウィーニー侯爵家の次女というお嫁にもらいやすい立ち位置。
それなのにまだ婚約者はいない。
最後に魔法に精通していて、治癒術が得意ときた。
ここまでの優良物件が目の前に歩いていたら、伯爵家嫡男以上の男子生徒には飛びつくに決まっている。
今すぐにでも割って入って、ミアはボクのものだ!なんて言いたいけれど、ぐっと我慢した。
ミアは彼らと何を話しているのだろうか。
ダメだ。顔に出してはいけない。
ここは余裕のある男にならなければ!
ミア以外の女子生徒に声をかけられたが、薄く微笑んで無言を貫いた。
だんだんとミアが近づいてくる。
結局、我慢できずに声をかけた。
「ミーア」
「え?ジル、クス様?」
ミアは驚いた表情でボクの顔を見つめた。
この場所には、ボク以外にも婚約者に会いにきた者たちが立っているのだ。
その中にボクがいれば、驚くのも無理はない。
にっこりと微笑みながら言った。
「いつものようにジルでいいよ、ミア」
ボクの笑顔を間近で見た他の女子生徒が黄色い声をあげた。
これでミアの周りの男たちに対して、牽制出来ただろう。
黄色い声が上がりすぎて、会話にならなかったので中庭へと移動した。
近くに人はいない。離れた場所から様子を伺っているようだ。
「どうしたの?」
「急にごめんね。どうしてもミアに会いたくなっちゃってさ」
少し頰が熱い気がしたけれど、気にせず続けた。
ミアもほんのり赤くなっている気がする。
「良かったらこれ食べて?2つ入ってるから、ルームメイトと食べれるよ」
「わっ!これ、最近こっちで流行ってるシュークリーム?食べてみたかったんだ〜!」
ミアは嬉しそうに笑った。
「あとこれも受け取って?」
そう言って、リボンのついたピンクのガーベラを渡した。
「うわぁ!これかわいい!ガーベラだね。お部屋に飾るよ〜」
「本当は花束にしようかと思ったんだけど、あまり大きいと邪魔になるかなって。一輪なら処分もしやすいかなって」
「ジルからもらったものを捨てたりしないよ〜」
その言葉が本当に嬉しくて、心の底から喜んでしまった。
スッとミアの手を取り、絡めるように手を繋いだ。
ミアは驚いた顔をしていた。
その顔ににっこり微笑んだ。
「少しだけ甘えさせて?」
ミアの顔が真っ赤になり、俯いた。
繋いだ手から、心臓の音が伝わったりしないだろうか。
本当は抱きしめたいけれど、今日のところはこれくらいで勘弁してやるっ。
いや、これ以上触れたら、押し倒したくなっちゃいそうだから……。
「ミアの顔も見れたし、そろそろ帰るよ」
ミアは赤い顔のまま、ウンウンと頷いた。
先ほどの校舎と寮の間まで、手を繋いだまま向かった。
名残惜しかったけれど、そこで別れた。
まだ手を握っていた感覚が残ってる。
思い出しただけでドキドキしてくる。
ボクはやっぱりミアのことが好きなんだ。惚れちゃったんだ。
告白すべき?
うわーどうしよううぅぅうう。




