27.父の話がまだでした
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「母の件は納得はできないし、腑に落ちないもどかしいものがありますが、手を引きます」
「うむ」
「それから母の呪い返しは完治しました」
「ほう?宮廷魔術師たちが匙を投げたのにお前は何をしたんだ?」
父はまたにやりと悪そうな笑みを浮かべた。
この顔の時が素なんだろうなぁ。
「魔法学院で新しい魔法を編み出しました。母自身にはもう呪いは残っていませんでした。残っていたのは、呪い返しを受けた証のような真っ黒な染みだけだと判断して、それを取り除きました」
「ほう」
「加齢とともに発生するシミと母の黒い染みは同一のものであるとの仮定から、美肌魔法というものを作りました」
「やはり、お前だったか」
「はい?」
「いや、最後まで話せ」
「はぁ。この約1ヶ月の間に少しずつ美肌魔法を掛けて、全ての黒い染みが消えたので完治したと報告致しました」
父はボクの言葉を何度も反芻しているようだ。
「何か問題がありましたか?」
父の様子が気になって、声をかけてみればくははははっと大笑いされてしまった。
「最近、王宮内で『美肌魔法』なる怪しいものが流行っているという報告を受けていたのだよ」
そう言って、部屋に入った時に見ていた書類を1枚ボクに渡してきた。
その書類には確かにそのようなことが書かれていた。
「出所が不明の怪しい魔法であり、副作用の危険性もあると宮廷治癒師たちが言うのでな、どうしたものかと思っていたのだがな。やはり、お前が関わっておった。しかも、リリアーナ絡みとくれば、出所は不明に決まっている」
「そうですね。母付きの侍女たちもさすがに言えないでしょう」
「そして副作用の問題は1ヶ月かけてリリアーナが無事を証明している」
「ボクの腕にあった黒子も半年前にこの魔法で消えましたが、ご覧のように副作用のようなものはございません」
そう言って、ボクは黒子があった部分を腕まくりして見せた。
黒子は綺麗に消えているが、魔法をかけた当時のようなもちもちつるつるな感じはなかった。
「なかなか面白い。この魔法はお前名義で発表しよう。病気の母を想って新魔法を開発しているという触れ込みでな」
「はい、構いません」
くくくっと父が笑うとつられてボクも笑った。
「他にはそういった新魔法はないのか?」
「今のところは、編み出していません。ただ、こういった魔法があったらいいなぁっていうのがいくつかあります」
「実用的なものであれば、お前名義で王宮から随時発表してやるぞ。国の繁栄に役立つものなら、なおよし。お前は王よりも研究者の方が向いているようだな」
前世の知識があれば、他の人と違った発想の魔法が編み出せるとは思う。
ただそれを他人に教えていいかは、悩ましいかなぁ。
美肌魔法シリーズくらいなら、編み出して公表してもいいか。
「それでは、これで……」
「話はまだだ」
「はい?」
もう終わりだろうと思って腰を浮かせかけたけれど、止められた。
他に話すようなことってあったかな。
「むしろこっちが本題だ。カーマインの成人の祝いの時に踊っていた娘とはどういった関係だ?」
あ、そうか。ミアと踊っているところを見られたのか。
「影からの報告によれば、その日テラスで一悶着あったようだが?」
あれも見られていたのか!
ボクはなぜか急に恥ずかしさが込み上げてきた。
確かあの時、自称婚約者候補たちに囲まれて
ボクとミアの関係を聞かれたんだっけ。
それでミアと友達だって確認しあったんだ。
そう思い出した瞬間、胸がズキっと痛んだ。
つい、手で胸を押さえたが何だろうか。
何も言えずに黙っていると父がにやりと悪そうな笑みを浮かべた。
「お前は本当に俺に似ているな。もう少し自覚してから問いただすとしよう」
その言葉を最後にボクは部屋を追い出された。