26.事情聴取は慎重に行うべきです
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疑問を確信に変えるため、行動に移すことにした。
まずは、懲罰塔そのものをステータスチェックしてみた。
懲罰塔は、内側からも外側からも物理的にも魔法的にも強い作りになっているようだ。
試しに自分自身に強化の魔法をかけて、中に入ってみた。
すると入った途端、強化の魔法が解けた。
自意識過剰かもしれないけれど、ボクの魔法は最強だと思っている。
それが解けるほどの強力な魔法が塔には掛かっているようだ。
また、中で自分自身に強化の魔法をかけて、外へ出ると魔法が解けた。
懲罰塔に掛けられている魔法は解消の上位にあたる無効のようだ。
これは覚えておいて損はないな。
次に……というか、母が完治するまでの間に国王やマイン兄、シェライラ様のステータスは厳しくチェックしてある。
この3人について見逃していたことはないかと調べたのだが……強いてあげるならシェライラ様も魅了持ちだったくらいで、特に気になるスキルは持っていなかった。
とにかく王宮内にいるありとあらゆる人のステータスをチェックしてまわった。
そこであることに気が付いた。
シェライラ様の周りに、ある効果のついた魔道具を付けている人間が多いのだ。
それは、信仰心というスキルが封じ込められたもので、一定の対象に対して尊敬の念を抱いたり逆らうことができなくなったりするもののようだ。
その信仰心の対象が、シェライラ様に設定されている。
……これって、シェライラ様が黒ってことか!?
これだけで、シェライラ様を問い詰めるわけにはいかない。
だんだん考えるの面倒になってきたなぁ。
ボクは、国王に突撃することにした。
晩餐の後に国王の私室へと訪れた。
国王の私室は、正妃の部屋からも側室の部屋からも遠かった。
普通、部屋と部屋の間に扉があって寝室を共にするつくりとかになってるんじゃないのか。
また別の疑問が出てきたけれど、蓋をしておいた。
「夜分に失礼いたします。お時間取ってくださってありがとうございます」
私室にいるにも関わらず、国王は書類を眺めていた。
「ああ、お前とも話がしたいと思っていたからな」
うっすらと笑うその顔には、疲れが浮かんでいるように見えた。
「……施錠……隔離……閉鎖!!」
ボクは普段よりも魔力を込めて、部屋に魔法を施した。
国王は、少し目を見開いていたが驚いてはいなようだ。
「先に話を聞こう」
「それでは、お言葉に甘えて……」
ボクは国王に母から聞いた話を伝えた。さらにシェライラ様の周りの人間がつけている魔道具についても話した。
「ああ、そのことか。はっきりと言おう。その件には手を出すな」
「なぜですか!」
すべてを知っている風な国王に驚いた。そして、手を出すなと言ってくる。
「なぜ……か。死人を出さないためだ」
「死人……ですか」
「リリアーナやジルクス、お前たちだけではない。シェライラもカーマインもシルルも殺害対象になっているのだ。誰も死なせない……それだけしか、俺にはできない」
国王は苦渋の表情を浮かべた後、ふんっと鼻で笑った。
「仕方ないな。知っていることを話してやるから、そこへ座れ。今から話すのは、国王としての言葉ではないぞ」
国王……父に促されて、ソファーへ腰かけると話し始めた。
「昔話だ。俺には愛を誓った女がいた。キャロルって名前だったんだがな、見た目は清楚な割に中身はハッキリとものを言う女だったよ。政略結婚のために用意された女のはずだったんだが、馬があってな。お互いに惹かれ合うようになったんだ。だが、あっさりと殺された。当時の俺には守る力がなくてな、悔しい思いをしたものだ。犯人はすぐ見つかったが、黒幕を暴くことは出来なかった。
自分が無能だと悟った瞬間だな。
それからしばらくは誰も傍に置きたくなくてな、すべてを拒否していたんだがキャロルにそっくりなシェライラが現れたんだ。
全く違うはずなのに同じに見えたりする不思議な女でな、気付いたら懐柔されていたんだ。
懐柔だぞ、信じられるか?平民出で貴族としての教育なんぞ受けていない女に懐柔されるとか王として情けないだろう。
そのままの勢いで正妃になるところだったんだがな、公爵令嬢であるリリアーナが割って入ってくれたんだ。
キャロルの面影を重ねたまま正妃に迎えるのは、キャロルに失礼だってな。リリアーナはキャロルと幼馴染だったんだ。
それでな、リリアーナと2人でキャロルの話をしているうちに絆されて、リリアーナを正妃に迎えたんだ。
そうしたらな、シェライラの後ろ盾になってる貴族が口を出してきて、結局シェライラを側室に迎えた」
母から馴れ初めを聞いてはいたけれど、そこにシェライラ様が絡んでいるとは知らなかった。
ここまでの話では、答えがわからない。
「そろそろ、本題にうつるか。
リリアーナは、シェライラの侍女に暗示を掛けられていたようだな。
暗示はな、掛けている瞬間は状態異常として表示されるんだが、時間が経つと消えるんだ。
それが真実だと思い込んでしまうから、異常ではなくなってしまう。お前にもわからなかっただろう。
しかも、その侍女自身も暗示を掛けられて動いていたり、記憶を消されたりしているようだ」
確かに状態異常として表示されている者はいなかった。
ステータスだけで判断するのは、間違っているのだと言われたような気がした。
「犯人はな、大方予想がついている。だが、いかんせん人数が多すぎて捕まえづらいのだ。
リリアーナに暗示を掛けた侍女たち。侍女たちに暗示を掛けた魔術師たち。魔術師たちに依頼をした貴族たち。
1人の貴族が行ったわけではないのだ。複数の貴族が複数の侍女を用意して、リリアーナに複数の暗示を掛けた。
暗示が絡み合った結果、リリアーナはお前とシェライラに呪いを掛けることとなったようだ。
シェライラはシェライラでな、その侍女たちを信仰の魔道具で拘束しているようだしな」
父はくくくっと笑った後、話を続けた。
「今、シェライラとその背後関係すべてを問いただせば、カーマインは王太子としていられなくなるな」
「それは!」
「そうだ、お前にとっては困るのだろう?前に言っていただろう」
「はい、ボクは王太子になるつもりはありません」
「逆にカーマインは王太子になりたいと願っている。誰も死なず、子供たちの願いが叶うのであれば、手を出さないでいるほうがいいだろう」
「……はい」
結局、母が操られていたということがはっきりしただけか……。
しょんぼりとした気持ちになり、顔を俯かせてしまった。
「そう、沈むな。リリアーナはあの塔にいる限り、操られることはなく自分の思いのままに生きられる。
シェライラは側室ではあるが、国母として生きていける。それでよいだろう?」
思いのままに生きられても、塔から出られない。
そうか、母はそれすらも受け入れているのか。そんな笑顔を浮かべていたな。
「良いとは言い切れません。でも、悪いとも言えません」
ボクの返事に、父はにやりと悪い笑みを浮かべた。
「リリアーナが幽閉という物理的処罰であるように、シェライラには精神的処罰を与えている。
知っているだろう?リリアーナが倒れてから
《・・・・・》一度もシェライラとは踊っていないと。
シェライラには一生、正妃の椅子には座らせん。あれは一生、側室のままだ」
シェライラ様が正妃の座に拘っているのであれば、一種の拷問にあたるのだろうか。
拘らなければ、生きやすいような気がする。
最後にどうしても聞いてみたいことがった。
「父上は、母上を愛しているのですか……?」
「王というのはな、世継ぎを残し国を繁栄させる道具のようなものだ。それに好きだ嫌いだというものはない。俺個人が愛したのはただ1人だけだ」
「そこまではっきりしていると、いっそ清々しいですね」
ついため息が出た。
やっぱり、王様って面倒くさいんだなぁ。
結局、ボクは自分の自由のために、母の件を諦めるしかないようだ。




