25.研究の成果を見せる時です
シリアス回…かな。
もうすぐ終業式がきて、2か月ほどの休みのあと2年生になる。
この長期休暇の間に、王宮へ行って母の呪い返しを治そうと考えている。
あの新しい魔法を試すのだ。
その長期休暇はすぐにやってきて、ボクはすぐに王宮へ向かった。
前に会った時と同じように、懲罰塔の最上階へ向かう。
長い長い螺旋階段を上り、入口で近衛と会話を交わし、中へ通してもらった。
「お久しぶりです、母上」
「まぁ、ジルクス。いらっしゃい。今日はちょうど焼き菓子があるのよ」
前に会った時よりもさらに、母の性格が優しくなっている気がする。
いや、よく考えれば高熱を出す前はこうやって食べ物をくれたような……。
「ほら、そんなところに立っていないでこちらへ座って?」
母に促されて、母の隣に座った。
侍女が気を利かせて、紅茶を運んでくれた。
紅茶をちらっと見るが、毒は入っていないようだ。
「今日はどうしたのかしら?」
「前に来た時に約束したでしょう?」
「そうだったかしら?」
母はふふっと笑いながら紅茶を一口飲んだ。
そんな母の袖から少しだけ黒い染みが見えた。
「……魔法を編み出したので、試させてもらってもいいでしょうか?」
「ええ、いいわよ」
母はすべてを受け入れるかの如く、片手を差し出した。
その手の袖を少しめくれば、一面真っ黒だった。
生唾をごくりと飲んで、気合を入れた。
この魔法は使い慣れていない。だからこそ、事前詠唱もしっかり唱えなければならない。
広範囲でどんな影響が出るかもわからないから、まずはごく小さな範囲で……。
「それでは、失礼します」
大きく息を吸って、吐き出して、もう一度大きく息を吸って……それから、唱えた。
「我願う 肌にある異物の存在を取り除き 艶と張りのある美しい肌に戻ることを……美肌!」
範囲は500円玉くらいの大きさ、心を込めて願いを込めて唱えた。
淡い光が指定範囲を包んで、染み込むように消えていった。
すると母の肌の黒い染みが……消えてもちっとした白い肌に変わった。
痛みなどはないようだ。ただ、母は驚いた顔をしている。
「き、消えましたわ」
「このまま一日様子を見ましょう」
「そ、そうね。時間が経ったら戻ってしまうかもしれませんものね」
「また明日こちらに参ります。明日の状態を見て今後どうするか決めましょう」
そう伝えると母は大きく頷いた。
翌日、また懲罰塔の最上階へ向かい、母と会った。
中に入った途端、母に声を掛けられた。
「ジルクス!一晩置いても、白い肌のままだったわ。しかも、その部分だけすごくすべすべなのよ」
とても嬉しそうな声をしながら、出迎えてくれた。
美肌の魔法は成功ということだ!
ボクも嬉しくて、ガッツポーズをしてしまった。
「あら、ジルクスもそんなことするのね」
またもふふっと笑われてしまった。
少し気恥ずかしくなって顔が赤くなったが、気付かないふりをして母に近づいた。
「一度に全身すべてに魔法をかけると何があるかわかりませんので、少しずつ進めましょう」
「ええそうね。ここまで綺麗になるのであれば、ゆっくりでも構わないわ」
まずは、左腕の肘から手の間にかけて、美肌魔法をかけた。
次の日は、左腕の肘から肩の間、その翌日は……と毎日少しずつ魔法をかけていった。
毎日、同じ魔法をかけていくうちに母は美肌魔法を覚えてしまった。
生活魔法と治癒術の間のような魔法なので、悪いことには使えないし大丈夫だろう。
と、思っていたら、侍女まで魔法を覚えてしまった。
そして、その侍女は自分自身にかけたそうだ。
曰く、「肌がもちもちになってすべすべになる」そうだ。
そのキレイになった肌を他の侍女たちに自慢して……美肌魔法があっという間に王宮内に広まってしまった。
約一か月かけて、母の体にあった黒い染みはすべて消え去った。
その黒い染みを消している間に母とはたくさん話をした。
それは国王との馴れ初めであったり、マイン兄が産まれた時の話であったり、ボクが産まれる時の話であったり……。
ボクが知らないような話も知っている話もいろいろと聞いた。
逆にボクが王立学院や魔法学院で学んでいることを話した。
ミアについても話した。
家族の中で、ミアについて話したのは母が最初だ。
母は気になることをよく言っていた。
マイン兄を初めて見た時に、「なぜか」この子は次期王太子に次期国王になると思ったとか。
ボクを初めてシェライラ様に見せた後に、「なぜか」ボクを排除しなければならない気持ちになったとか。
「なぜか」「なぜか」と思う部分がたくさんあった。
でも、懲罰塔に入ってから、どうしてそう思ったのか不思議でならないと。
ここにいる間は、穏やかな気分でいられるのよ、なんて言っていた。
ボクは、母の黒い染みがすべて消えるその日までずっと考えていた。
それって、母自身も呪われていたとか暗示をかけられていたとかそういうことかな?と。
でも、小さい頃、母のステータスを見てもそんな状態異常は見られなかったし、どういうことだろうか。
「母上、黒い染みはすべて消えました。呪い返しは完治したと言ってよいと思います」
「そうね、背中の染みもなくなったって侍女から聞いたわ」
「でも、完治したことはまだ、黙っていた方がよいと思います」
「あら、どうしてかしら?」
「母上の話を聞いていて、たくさんの疑問が浮かび上がりまして。それらが解決するまでは、このままここにいたほうが安全だと思います」
「あら、ジルクス。それはおかしいわ」
またいつものように母はふふっと笑った。
「私は一生、懲罰塔から出られないようなことをしたのですよ。懲罰塔から出ることは叶いません」
母の言葉に、ボクは目を逸らし何も返せなかった。
もしかしたら、母は悪くないのかもしれないと思っただけになんだか悔しかった。
この気持ちを全部、ぶつけてこよう。
そうだ、ちょっと暴れてこよう……!!!
投稿開始してから一ヶ月がたちました
18,000pt超えました!
読んでくださってる方々、本当にありがとうございます!




