23.どんな魔道具を売ってるんですか
ミア嬢とは学術特区で別れて、馬車に乗り平民街まで移動した。
平民街の商業区の中ほどにある路地を入った突き当たりにその店はある。
魔道具屋とは、魔石を組み込んだ道具を売っている店のことだ。
店構えは雑貨屋さんみたいな感じだ。
初めて入る店なので、少し緊張しつつ扉を開けた。
店の中に入ると、清潔感溢れる店内に驚いた。
もっと、おどろおどろしい感じのものかと思ってたんだけど、ラノベの読みすぎかな。
「いらっしゃい~。何をお求めですか~?」
間延びした声の若い店員のお姉さんが、現れて声を掛けてくれた。
「どんな魔道具があるのか知りたくて……」
「ヒヤカシかい〜?」
「気に入ったものがあれば買います」
「別にヒヤカシでも構わないんだけどね~。気になる物があったら、声かけてね~」
「はい、ありがとうございます」
魔道具屋に置いてある魔石を組み込んだ道具には2種類あるようだ。
1つは、魔法を封じ込めた魔石を組み込んだ物。
前世の電化製品とこの世界の魔法を組み合わせたような物がほとんどだ。
冷蔵庫……保冷の効く箱に冷却の魔法を封じ込めた魔石を組み込んだ物。
洗濯機……大きなバケツに水流の魔法と竜巻の魔法を封じ込めた魔石を1つずつ組み込んだ物。
懐中電灯……灯光の魔法を封じ込めた魔石を先端に組み込んだ物。
これ、考えたの転生者とか異世界人とかそういうやつだよね。
ボクとミア嬢以外にもそういう人がいるんだなぁ。
もう1つがスキルを封じ込めた魔石を組み込んだ物。
こっちはほとんどがアクセサリーの形をしている。
つまり、魔道具屋は、電化製品とアクセサリー小物雑貨を置いている店……といった感じなのだ。
ミア嬢を連れてきていたら、きっとアクセサリー売り場の前から離れなかっただろうなぁ。
そんなことを考えながら、手近にあった髪飾りを手に取った。
フリフリレースのリボンの中央に大きめの魔石がブローチのように組み込まれている。
あ、これリボンとブローチで取り外し可能なんだ。
こういうのミア嬢が好きそうだなぁ。
他にもミア嬢がよく身に着けている涙型の首飾りや耳飾り、ブローチもあった。
何を見ても、ミア嬢を思い出して似合うかなぁなんて考えてしまう。
そうだ。この間のお詫びも兼ねて何か贈ろう。
いいことを思いついた。
すぐに目の前にあるたくさんのアクセサリー小物の中から、見た目とスキルが良い物を探し始めた。
探し始めたのはいいのだが、ここの商品はなんというか……偏っているような。
髪がツヤツヤになるスキルを封じ込めた魔石を組み込んだリボンだとか。
爪がツヤツヤになるスキルを封じ込めた魔石を組み込んだ指輪だとか。
肌がツヤツヤになるスキルを封じ込めた魔石を組み込んだネックレスだとか。
どうしてこんなにツヤツヤになる~が多いんだ。
まじまじと見ていたら、お姉さんから声を掛けられた。
「それはね~、人気商品なんだよ~。いくつになっても女性はキレイでいたいからね~」
それはわかる……コクコクと頷いておいた。
ただ、ミア嬢にツヤツヤスキルはいらないだろう。
なくても黒髪はいつもツヤツヤとしているし、爪も整っている。
まだ幼いのもあってほっぺたはふにふにのもちもちだ。
思い出したら、頬が緩んでしまった。
気に入ったスキルがないなら、ボクが魔石に封じ込めればいいのではないだろうか。
「あの、すいません」
「はいはい~?」
「まだスキルを封じ込めていない魔石を組み込んだアクセサリーってありますか?」
「スキルが入った魔石でアクセサリーは作るんでね~。空っぽなのはないね~」
「じゃあ、ボクが魔石にスキルを封じ込めるんで、それを使ってアクセサリーを作ってもらうっていうのは?」
「ああ、オーダーメイドだね~。それなら取り扱ってますよ~」
「それお願いします!」
「はいは~い。大きさと色はどれくらいのものがいいですか~?」
「これくらいの大きさで」
そう言って、小指の爪くらいの大きさを示した。
「色は……紅色の物と、碧色の物を1つずつ」
「はいは~い、少々お待ちくださいね~」
お姉さんはお店の奥の方へ入っていき、魔石をいくつも乗せたトレイを持って戻ってきた。
手袋なんてはめて、1つ1つ丁寧に扱っている。
「紅色の物と碧色の物をいくつか持ってきましたよ~。これの中から選んでくださいね~」
紅は紅でも、深い色のモノから薄い色のモノまで様々だった。
その中か、ミア嬢の瞳と同じ深くて濃い紅色のものを選んだ。
碧色は、ボクの瞳の色のモノをお姉さんに選んでもらった。
「それでは~、これにスキルを封じ込めてください~。素手で触って~、封じ込めるスキルを強く思い描けば入りますから~」
ボクの手のひらに紅色の魔石を置かれた。
「すいません、碧色のも乗せてください」
お姉さんは言われたとおりに、ボクの手のひらに碧色の魔石も置いた。
この2つの魔石に封じ込めるのは、念波…テレパシーみたいな第六感で感じるようなスキルだ。
それをこの2つに同時に封じ込めることで、お互いに通話が可能になる……ハズ。
ボクのスキル欄にはそんなような書かれているから、大丈夫なハズ。
ぐっと握りしめて2つの魔石が互いに通話可能になるように強く思い描けば、ほんのり熱くなった。
手を開くと、先ほどよりもキラキラと輝いた魔石が2粒あった。
「スキルの封じ込めはできたようですね~。それでは、形はどんなものにしますか~?」
「形は涙型で」
「はい~、少し失礼しますね~」
お姉さんはボクの手のひらから2つの魔石を取り、手袋をしたその手に乗せた。
そして、目を瞑ってゆっくりと握りしめる。
しばらく動かずにじっとしていると、ふうっというため息が聞こえた。
お姉さんの顔を見れば、額に汗が出ている。
「できました~」
お姉さんが手を開けば、先ほどまでいびつな形をしていた魔石がキレイな涙型に代わっていた。
気になって、お姉さんをじっと見ると魔石加工のスキルを持っていた。
なるほど、それがあればボクでも加工が出来そうだなぁ。
たぶん、後でボクにも使えるようになっているかもしれない。
でも、面倒くさいから専門の人に任せよう。
「それで~、この魔石をどんなアクセサリーにしますか~?」
「こういった形の……」
ボクはお姉さんにどういったものにするかを詳しく説明した。
「金属の加工は~、今日はできないんで~明後日以降に取りに来てくださいね~」
前金を払って、お店を出た。
出来上がった頃に受け取りにこよう。
ミア嬢が喜んでくれるといいなぁ。