17.閑話:カーマイン、王太子への道
王都から少し離れた場所に「試練の祠」と言われている場所がある。
試練の祠の奥には、王太子の証があるという。
そうそれこそが、王太子になるための試練というわけだ。
証がどんなものか王太子候補には秘密らしい。
王太子候補である、第一王子カーマイン殿下の成人の祝いからちょうど一か月が経った。
試練の祠に入るための準備は整い、入口で従者たちと別れた。
祠に入ってすぐに、カーマインはライトの魔法を使って道を明るく照らした。
試練の祠の中は、掃除が行き届いていて普段から人の出入りがあるように見えた。
岩の間をくりぬいてできた入口を通ってきたのに、きちんと四角く部屋が仕切られている。
廊下には赤いカーペットが敷かれている。
何者にも会うわけでもなく、どんどん進んでいくのだが奥へ進んだ気がしなかった。
「ものすごく広い?」
カーマインは誰に言うともなく、そうつぶやき立ち止まった。
幻惑を使われたのだろうか。
カーマインはその場に座り、目を閉じて地面を撫でた。
触り心地が悪い。
赤いカーペットの上を歩いていた。その上に座ったのだから、地面にあるものはカーペットである布の触感のはずだ。
だが、目を閉じて撫でた感じは凸凹してざらざらしている。
目を開け、しばらく考えた素振りを見せた後、ライトの魔法を消した。
暗闇に目が慣れてくると、天井からうっすらと光が漏れていることに気が付いた。
目が慣れてしまえば、そのわずかな光でどういった部屋なのかがわかる。
いや、そもそもここは部屋でも廊下でもなかった。
周囲の壁は岩肌だった。
振り返れば、入った場所からほとんど進んでいなかった。
暗闇に慣れた目で進んでいく。
地面は凸凹で歩きづらいが、先ほどよりは進んでいる感覚がある分マシだろう。
進んでいくと、一番奥広場があった。
天井からは眩いくらいに光が差し込んでいた。
広場はとても広く、池もあった。
その広場と池には、いろんな種類の花が植わっていた。
その花たちは一つとして同じ花はなかった。
花に見惚れていると目の前に一人の老人が現れた。
ふさふさの白い髪に同じくふさふさの白い髭、この世のすべてを知り尽くしているような顔をしていた。
「あなたは、ご先祖様ですか?」
カーマインは尋ねたが老人は返事をしなかった。
「ここにある花から好きなものを一つ選んで摘んでいくがいい」
返事の代わりというわけではないが、老人はそう言った。
カーマインは老人が見ている前で、一つの花を選んだ。
カーマインが選んだ花は「ブルーサルビア」だった。
「その花の名は『ブルーサルビア』花言葉は『尊敬』『知恵』『賢さ』『家族愛』『良い家庭』といったところかのう」
老人はそう言うと、カーマインにもと来た道を戻るように指さした。
カーマインは老人に深くお辞儀をした後、選んだ花とともにもと来た道を戻っていった。
カーマインは試練の証として、「ブルーサルビア」を持ち帰った。
その後、ブルーサルビアの花の絵がカーマイン王太子の紋章になった。
「ワシ、ただの庭師なんだがのう……」




