10.閑話:ミアのクッキー
今日はジルから魔法を習う日!
ずっと楽しみにしていたの。ワクワクしすぎて、昨日は眠るのが遅くなったくらいだよ。
異世界に転生したら、やっぱり剣と魔法でしょ!って思ってたの。
剣は重たくて扱うのが難しかったから、せめて魔法だけでもって思ってたんだけど、私には素質がなかったの。
ううん、素質がないと思ってたの。
生活魔法なら使えるし、これで満足しておこうって思ってた。
王立学院に入って、ジルと出会ってすべてがひっくり返ったの。
初めて会った時は、他の人と何かが違うんだけど、何が違うかわからなかった。
王子様だから、他の人と違うんだろうなぁなんて思ってたけど、そうじゃない気がして。
見かけるたびにじっと見つめてたけど、やっぱり何かが違うなぁって、余計に気になった。
夜会の時に同じ転生者だって知って嬉しくて、テンション上がっちゃって……。
そんな時に、ジルったら乙女ゲーの王子様みたいなことをするの。
ドキドキしてもしょうがないよね。
外見はドキドキするくらいカッコいいけど、中身も知らずに恋人になるなんて、さすがにないなーって思って、まずは友達から始めることにオッケーしちゃった。
あ、話がずれちゃった。
そのジルが魔法学院で首席入学したの。
ジルから習えば、もしかしたら私にも初級魔法くらい使えるかな?って。
可能性は低いかもしれないけどさ、同じ転生者だったら神様が何かしてくれてるかもしれないじゃん?
それに、ジルとも話がしたかったしね。
前世の話もしたいし、今世での王子様としての話も聞きたいし!
服選びに時間がかかって、待ち合わせの時間よりも遅くなっちゃったけど、ジルは怒ったりしなかった。
怒るどころかにっこり笑いながら服を褒めてくれた。
真っ直ぐに褒められるとすごく照れるよ。こういうの慣れてないんだから。
ティールームでは、紅茶とプリンアラモードを食べて……前世と同じスイーツが出てくるんだけど、おいしいからいいよね。
こっちの世界でも食べられるなんて幸せ!
きっと、前世がパティシエだった人がこっちに転生して広めたんだろうね。
他にも転生した人がいっぱいいるのかもしれない。
食べ終わってから、魔法についての講義を受けたんだけど、私が思っていたのとは違うみたい。
呪文をしっかり唱えさえすれば、魔法が発動するんだと思ってたんだけどね。
頭の中で考えたことを現実にするための方法が魔法だったんだね。
想像力がすべてって面白いなぁ。
治癒術も想像力なら、私には向いているかもしれない。
今まで一度もうまくいったことがないのは、頭の中空っぽのまま呪文を唱えてたからなのかも。
ジルは一通り説明し終わると、実践するために場所を移動するって言った。
「ジル様、ちょっと待ってください」
ティールームを出てすぐにジルを呼び止めた。
あ、2人きりの時以外は、様付けしておかないとね。王子様だからね……。
「ん?」
「これ、今回の報酬のクッキーです。お口に合えばいいのですが」
肩掛けバッグの中から、紙袋に包んだクッキーを取りだして渡した。
寮の従者や侍女が使う調理場を借りて、作らせてもらったんだ。
多めに作って、その場にいた他の子の侍女に食べてもらったんだけど、おいしいって言ってたし、味は大丈夫なはず。
「おおお!」
ジルはすごく嬉しいみたいで両手とも握りこぶし作ってガッツポーズしてた。
王子様らしくないよう……。
でも、それはそれでいいのかな。うーん。
「食べてもいい?」
「はい」
ジルはその場でクッキーを齧った。
飲み物とかないんだけど、大丈夫かな。
さくさくという音がする。
満面の笑みを浮かべてる。
あんなにおいしそうに食べてもらえると、こっちも嬉しくなっちゃうよ。
「あーどうしよう。すごくおいしい!」
ジルはぱくぱくとすごい勢いでクッキーを食べて……気付いたら、食べ終わってしまった。
「えええ!足りなかった?」
「足りないわけじゃないよ。おいしくて止まらなかっただけー」
にへらっとした笑みでそう言われて、ドキっとしてしまった。
あ、胃袋掴む感じだ。
「また食べたいな!」
「また来週、作りますねー」
今度は違う味のクッキーを作ろうかな、なんて考えながら、学術特区の馬車乗り場まで歩いた。
ミアはミーハーなのかな…たぶん。




