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09.しばらく休ませてもらいました

(3/3)

司祭の許可をもらったので、孤児院の応接室で休ませてもらうことになった。

応接室まで行くのに、ミア嬢を支えて歩いていたんだけど、ふらふらとした足取りだった。

本当はここぞとばかりにお姫様抱っこできればよかったんだけど、体力も身長も足りないという……。

いつかきっと……ぐすん。


応接室のソファーに2人で座るとミア嬢はボクの肩にもたれかかってきた。

魔力を使いきると、体が自動的に休息を求める……つまり、眠ってしまうんだって。

ミア嬢はもう限界なんだろうなぁ。

肩にかかる重さがだんだん重くなってきた。

すぅすぅという寝息をたてて眠りだしたようだ。


コツコツと足音がして、音の方を見やると司祭が近づいてきた。


「初めまして、ここの教会で司祭をやっているトラストと申します。ヴェインに……義足をしている者に詳しく聞いたのですが、本当にそちらのお嬢様が?」

「そうです。彼女が魔力を使い切ってまで、みんなを治癒しました」


ボクの言葉を聞いて、司祭は目を見張った。

目の前で見ていないものを信じるのって難しいよね。


「そうですか。私は教会へ戻らねばならなりません。何もないところですが、ゆっくりしていってください。子供たちには静かにするように伝えておきます」


司祭は軽く頭を下げると部屋を出て行った。

部屋の外に小さな影がいる気がしたが、気付かないフリをした。


肩にかかる重さがだんだんとずれていく感じがして、慌てて抑えた。

元の位置に戻すのも難しいから、ミア嬢の頭をボクの膝の上にうつした。


部屋では、ミア嬢のすぅすぅという寝息が聞こえる。

膝枕するときに、乱れた髪を整えてあげた。

ミア嬢の髪は、漆黒とも言える黒髪でサラサラだった。

今は頭の高い位置で1つに結んでいるけれど、ほどいたら腰くらいまでありそうだ。

寝顔からだとわからないけれど、瞼の奥には深い紅色の瞳がある。


魔法を教えたその日のうちに倒れるほど、魔力を使わせたのは良くなかったな。

治癒術の基礎とイメージ方法、事前詠唱と発動言語の文言を教えただけで、初級の治癒どころから中級の範囲治癒まで使うとは、さすがに驚いた。

ミアだったら、最上級治癒術を使うこともできたり……したら、面白いな。



1時間くらい経ったころ、廊下をドカドカと走る音が聞こえた。

音の主は、ノックもせず部屋に入ると叫んだ。


「範囲治癒を使った少女はおるか!」

「寝てるんだから、静かにしろよ」


あまりにも大きい声だったから、キレ気味に文句を言ってしまった。

叫び声の主は、さきほど見た司祭と同じような服を着ているのだけれど、同じなのか?と疑ってしまうほど横幅が広かった。

手や首にはギラギラとした宝石や貴金属をつけ、ものすごく太っていたのだ。

教会の私腹を肥やしたエライ人ってやつか!


太った司祭もどきはムッとした表情をして、さっきよりは少し小さな声で言った。


「貴様こそ、そこで何をしている。はしたない真似はやめて、その少女から離れろ!」


はしたない?膝枕のことか。

これは、ミア嬢が肩から膝へ落ちてきただけで、不可抗力なんだけどなぁ。


「うるさい」


ボクは太った司祭を睨んだ。


「…ん……」


ミア嬢が喉を鳴らして、身じろぎした。

そのまま、ボクの膝に頭を乗せたままふわぁぁぁと伸びをして、きょとんとした顔をしていた。

ちょうど仰向けになったところで、膝の上のミア嬢と目が合った。


「あれぇ?」


ミア嬢は少し舌っ足らずな感じで言った。

まだ少し寝ぼけているのかな?

ぽけーっとしたその表情は、すごく可愛かった。

その可愛い顔は絶対に太った司祭もどきに見せちゃダメだよ!


「おはよ。少しは回復できたかな?」

「おはよー……って、え!?」


ミア嬢はようやく、状況を把握したようでがばっと起き上がった。

危うく頭突きくらわされるところだったよ……。


「あなたが範囲治癒を使った少女だな?」

「はぁ……はい」


ミア嬢は声の主のほうを見て、ものすごく嫌そうな顔をした。


「魔力が回復するまで休ませてもらってたんだけど、立てそうなら帰ろう?」


ボクがそうやって声をかけると嬉しそうに頷いた。


「お待ちください!」

「待つ必要はないよ」

「貴様には聞いていない!」


太った司祭もどきはドカドカと音を立てながら歩いてきて、ボクとミア嬢の前に立ち塞がった。

そして、ボクとミア嬢を引きはがすように両手を伸ばしてきた。


「……放電リトルスパーク

「うわぁぁぁっ!!!」


太った司祭もどきの指先から体に向かって電気が流れていった。

手にはたくさんの宝石がついた指輪がついている。

威力は弱めてあるから、死ぬようなことはないけれどかなり痺れるはずだ。

床で転げまわっているのを見て、蹴り飛ばしたい気分になった。


叫び声が聞こえたからか、さきほどの司祭トラストさんやヴェインさん、他に知らない司祭だか助祭だかが部屋へ入ってきた。


「何事ですか!?」


太った司祭もどきは、同僚が部屋に入ってきたのがわかった途端、転げまわるのをやめて立ち上がった。そして同僚たちに訴えだしたのだ。


「この者が聖女様候補に不埒な真似をしていたので、引きはがそうとしたら魔術を使われてっ!」


真実とは異なった言い訳だ。不埒な真似などしていない!

ついでに、『聖女様候補』っていう不穏な単語があったけど、どういうことだ。


太った司祭もどきの言い訳を聞いて、トラストたちは眉をひそめた。

ボクが悪いみたいな視線を向けてくるとは……。


『ああもう面倒くさいなぁ…不敬罪にしようかな』

『ダメだよ!もっと面倒なことになっちゃうよ』


あえて日本語で言ってみれば、ミア嬢がボクの腕を掴んで答えた。


「貴様ブツブツと何を言ってるんだ!まさか、もっと魔術を使うのか!?」


太った司祭もどきが一瞬怯んだが、すぐに煽るようなニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「ノックもせずに部屋に入ってきて、名前も名乗らず、女性に触れようとするなんて!そんなやつ許すわけないだろ!」


ふんっと鼻息荒く文句を言ったら、ミア嬢が横で、うんうんと縦に頷いてくれた。

トラストたちの視線が今度は太った司祭もどきのほうへ向いた。



結局、太った司祭もどき改め太った司教が悪いってことで収まった。


ミア嬢と話がしたくて呼びに来たってことだったんだけれど、ミア嬢の体調を考慮して後日にしてもらった。

門限があるってのも理由のうちの一つだけど。

その後日、教会呼び出しの際は、ボクも同行することになってる。

一人で行かせるのは、マズイ予感がするからだ。



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