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08.初めての治癒術は驚きのものでした

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移動した先は、学術特区のすぐ近くにある教会だ。孤児院と養護院が併設されている。

孤児院は親や世話してくれる近親者のない未成年が保護されている施設で、養護院は身体に欠損があり誰かの助けがないと生活できない人が保護されている施設だ。

保護と言っても、ただ守られているだけではない。

孤児院にいる子供たちは率先して自分のできることをやるし、養護院にいる大人たちはそんな子供たちに絵本を読んだり字を教えたりしている。

その孤児院と養護院は、教会への寄付金の一部と国からの補助金で運営されている。


教会の門を通り、横並びにある孤児院へと向かった。


「こんにちはー」


孤児院の入口で挨拶をすれば、ボクよりも小さい子供があちこちから現れて出迎えてくれた。


「司祭様はいる?」

「うーん?」

「いまいないよー」

「せんせーならいるー」

「せんせー!」


この時間は大きい子供たちは、外で働いているのかもしれない。

奥の方からゆっくりと、義足を付けた青年が歩いてきた。


「せんせっ!おきゃくさんっ」

「しさいさま、いる?って」

「司祭様は、今は教会の方へいってていないよ。何か用かな?」


義足を付けた青年は、ボクとミア嬢を見て無表情のまま聞いてきた。

ボクらがまだ子供だから、敵意は見せないけど、何しに来たんだ?くらいには思ってそうだ。


「初めまして、ボクはジルっていいます。魔法学院の生徒です。そして、彼女は…」

「ミアです。初めまして〜」

「彼女は治癒術を練習しているので、小さな傷でもあれば、治させてもらえないかなって」

「あの、不慣れでもよければ、治させてください」


ミア嬢は、すごく緊張した表情で青年と向かい合った。

青年はボクらの言葉に半信半疑な表情を浮かべて言った。


「俺はヴェインだ。治ったとしても、お金は払えないよ。それでもよければ、試してみてよ」


そして、義足ではないほうの足の膝を見せた。

義足がうまく機能していないのかもしれない。

それはきっと、転んでできた傷なのだろう。

何度も何度も転んで、痣になって…打ち身と擦り傷と切り傷が混ざったようなものだった。


ミア嬢はその傷を見て、少しつらそうな表情をしたあと、移動の間に教えた発動言語を唱えた。


「……治癒ヒール!」


淡い光が青年の膝部分を包むと、眩しいくらいに光ったあと消えた。

すると、膝の擦り傷切り傷になっている部分があっという間にかさぶたになり、ぽろりと取れ、紫色に変色していた痣はキレイに消えていた。

初めて使ったとは思えないほど、いともあっさりと青年の膝の傷が治った。


「おぉ!これはすごい……ありがとうございます!」


青年は驚きの声をあげていた。もちろん、状態:驚愕だ。


「他に怪我をされている場所はありますか?」

「俺はない……です。子供たちなら、あると思いますが……」


青年の周りにいた子供たちをよく見れば、体のあちこちに小さな傷があった。

ミア嬢はボクの顔をちらりと見てきた。

今日は練習しにきたんだから、ミア嬢の思う通りにすればいい。

うんうんと頷いた。


「みんなの傷も治してあげるね。ここに集まってもらえるかな?」


子どもたちはわぁわぁ言いながら、ミア嬢の前に集まった。

小さな子供たちだけで15人といったところか。

ミア嬢は、一人一人に話しかけて、どこが痛いのか聞いていく。


ん?

一人一人の症状を聞いても、治癒ヒールを使おうとしない。

もしや、ミア嬢……アレを使うんですか!?

声をかけるタイミングを失って、目を瞬かせていたら、ミア嬢は事前詠唱なしで、発動言語を唱えた。


「……範囲治癒エリアヒール!」


治癒ヒールの時と同じように淡い光が子供たち全員を包み、包み終わるとカッと眩しいくらい光って消えた。

子供たちは各自の痛かった部分、指をぶつけたとか、ケンカして擦りむいたとか…そういった部分を自分の目で確認すると、歓声を上げた。


「すごーい!もう、痛くないよー!」

「あかいのなくなったぁ」

「おねえさんすごいねー!」

「ありがとう!」


子供たちは口々に感想やらお礼やらを言って、喜んでいた。

その姿を見ていたミア嬢は、青い顔をしていた。

そして、ボクの顔を見て、へへっと笑うとそのままふらっと倒れそうになった。

慌ててミア嬢の腰に手を回すと、向かい合わせになってもたれかかってきた。


「あぅ……すいません、力が入らなくて……」

「魔力使いすぎだよ。しばらく休ませてもらうしかないね」

「おねえちゃんだいじょうぶ!?」

「大丈夫ですか?」

「おねえさんくるしそうだよー」


青年と子供たちも心配そうな声をかけてくれた。

教会の方まで声が聞こえていたのかもしれない。

司祭がゆっくりとだが、こちらに向かってきた。


「何かあったのかい?」


現れたのは背の高いほっそりとした司祭だった。

宝石や貴金属などは一切つけておらず、清貧を表しているような人だ。


「この方たちが、治癒術の練習をしたいとのことで、私たちの傷を治してくださったんですが」

「おねえちゃんねー、ぴかってしたらたおれたのー」

「くるしそうなの!」


ボクはミアを抱きしめたまま、司祭に挨拶をした。


「ボクはジルです。彼女はミアと言います。ヴェインさんの言う通り、治癒術の練習をさせてもらったんですが……どうも魔力を使いすぎたみたいで、少し休ませてもらってもいいですか?」


司祭は目を瞬かせた後、青年の顔とボクの顔を交互に見て言った。


「ええ、どうぞ。応接室に案内してあげなさい」


青年と子供たちに案内されて、ミア嬢を休ませることにした。

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