02.閑話:リリアーナの心
初めて第一王子のカーマイン殿下を見た時、「この子が次期王太子であり、次期国王なのね」と思った。
第一王子を抱いていた乳母も「大事にしなければならないお方です」としきりに言っていた。
だから、私も「そう思うわ」と、答えた。
側室の子であるのに、正妃である私の子ではないのに、なぜかそう思った。
なぜ、負けずに私も男の子を産むわなんてこと思わなかったのかしら。
2年経って、今度は私に子供ができた。
とても大変な思いをして第二王子のジルクスを産んだ。
髪も目も私と同じ色、目元や鼻筋は愛しいあの方にそっくりな我が子。
生まれたばかりはお猿さんのようにしわくちゃで、小さな手は頼りなさげで、愛しいと思った。
日を追うごとに成長していく姿を見るのは幸せだった。
一か月ほど経ったころ、シェライラ様とカーマイン殿下がジルクスに会いにいらした。
「2歳違いだから、きっと2人は仲良くなるわ」
なんて、シェライラ様と話した。
シェライラ様とカーマイン殿下、その侍女や乳母たちが部屋を出て行くと、急に不安になった。
「ジルクスは第一王子にとって害になる。邪魔になってしまう」
とそんなことを思うようになった。
シェライラ様は、2人が仲良くなると願っていたのに、なぜ急にそんなことを考えたのかしら。
邪魔になるなんて思っても、我が子を殺す気持ちが湧くわけでもなく。
日に日に不安は溢れていった。
そして、ある日思った。
私とジルクスが排除されるような存在になればいいと。
その日から、私とジルクスが排除されることを願って、毎日呪いの言葉を吐くようになった。
私の願いが通じたのか5歳になったジルクスはまるまる太って、子豚のように可愛かった。
わがままなところも愛らしかった。
ある時、ジルクスが高熱を出して一週間寝込んだ。
熱がだいぶ下がり、意識もはっきりしはじめたころ、また、呪いの言葉を吐いたら、はじき返された。
驚いたけれど、顔も見たかったし、頭も撫でたかったから、毎日素知らぬふりして呪いの言葉を吐きに行った。
ジルクスは高熱を出してから変わった。
まるまる太った子豚だったのに、ほっそりとした子供らしい体形に。
わがまま放題だった性格は、物静かで文句ひとつ言わない性格に。
あまりの豹変ぶりに驚いた。
これでは、第一王子の邪魔にしかならない。
どうすればいいかと悩んでいるうちに第一王子は王立学院へ入学した。
これはチャンスなんだと思った。今でもなぜそう思ったのかわからない。
ジルクスには、呪いが効かない。
試しに、ジルクスへ呪われた花を贈ってみた。
翌日部屋に入ると花の呪いは解除されていた。
呪いを解除できる力があるのは間違いなかった。
だから、決行した。
私が排除されるために、ごめんねと思いつつも、側室に少しずつ呪いをかけていった。
毎日顔を合わせに行き、少しずつ少しずつ呪っていった。
一か月たつと、晩餐の席に来ることもできなくなった。
すぐさま、ジルクスが立ち上がった。
ジルクスは無事に側室の呪いを解除し、そして、その呪いはすべて私へ返ってくる
ああ、これで私は排除される。やっと私はここから離れられる。
そう思ったのに、王は私を離さなかった。
懲罰塔へ入れて、宮廷治癒師を用意して、まるで病人のように手厚く保護をした。
そう、保護をしたの。
私を何かから守るために。正妃である私を守るために。
懲罰塔で生活していくうちに心に変化が訪れた。
接してくれる者たちが皆優しかったおかげかもしれない。
ジルクスが第一王子の害になるという考えが薄れていった。
私は今まで何をしていたのでしょう。
大事な我が子に呪いを、シェライラ様に呪いを……。
振り返ると後悔の念でいっぱいになった。
きっともうこちらからは会いにいけないのでしょうが、いつかシェライラ様に会えたら、きちんと謝罪をしたいと思った。