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01.母に会いに行きました

王立学院を卒業して、魔法学院へ入学するまでの間、長めの休みがある。

この機会に、母に会いに行くことにした。


母は王宮の離れにある王族専用の牢屋と言われている懲罰塔の最上階にいる。

王族専用なので、部屋での待遇は今までと変わらない。

違うのは部屋から出られないというだけだ。


長い螺旋階段を上り、最上階の入口へつくと近衛が立っていた。


「面会しにきました」


その言葉だけで、すんなりと扉の鍵を開けてくれた。

もうちょっとゴタゴタするかと思ったのに、意外だ。



中に入ると、母はソファーに座って紅茶を飲んでいた。

呪い返しを受けて、苦しんでるんじゃないの!?

それとも、呪い返しの解除が終わったの!?

なんていう心の声が聞こえたかのようで、母はくすくすと笑った。


「ジルクスもそんなに驚くことがあるのね」

「え……いや、その……呪い返しが……解除できたんですか?」


一般的に、呪いを解除する魔法というのは存在している。治癒術が使える者なら大体、知っているし、一部の者は使うことが可能だ。

だが、呪いを解除したあとに受ける「呪い返し」を解除する魔法というのは存在していない…とされていた。

母が解除する魔法を編み出したのか、それともどこかに文献があったのかわからないが…。

母を見ている限り、呪い返しは解除できたように見える。


「まだ、一部しかできていないわ」


母は苦笑いをしながら、説明してくれた。

呪い返しというものは、掛けた呪いが2倍になって返ってくるものらしい。

半分は、通常の呪いの解除方法で解除できるのだが、残り半分は未知の領域だそうだ。

その未知の領域の部分は、体の表面に現れていて、黒い染みが広がっているらしい。


「一部だけど、解除してくれたのは、宮廷治癒師なのよ」

「てっきり、回復もかけてもらえず苦しんでいるのだと思っていました」


母はボクの言葉を聞いても怒らなかった。


「ジルクス、隣に座ってちょうだい」


一瞬迷ったけれど、母の隣に座った。

母は嬉しそうな……それでいて眩しそうな顔をしながら、ボクの頭を撫でた。


「ここへ来てからずっと、あなたに会えたら謝りたいと思っていたの」

「え?」

「ずっとあなたに呪いをかけていたわね。本当にごめんなさい」


ボクは母の言葉に驚いた。

自白するとは思っていなかったからだ。


「もう、済んだことです。気になさらないでください」


呪いと言っても、苦痛を与えるものではなかったし、すべてはじき返したので、そこまで気にしていなかった。

母はボクの言葉を聞いて、悲しそうしていた。

そんな顔を見ていたくなかったので、すぐに話題を変えた。


「あの、母上は……苦しかったり、痛かったりしないのですか?」

「実はね、ここへ来てすぐ、宮廷治癒師がいらしてね……苦痛を和らげる魔法やお薬をいただいたの。それから、侍女たちがね、気分のよくなる薬草茶を用意してくれたのよ。まるで、病人のような扱いを受けたの」


母は、優しい笑みを浮かべながら答えてくれた。

ボクは驚きを隠せず、母をじっと見ていた。


「時々ね、陛下もここにいらしてくださるの」


母は右手で口元を隠した。

袖から少しだけ見える手の甲に黒い染みが見えた。

急に泣きたい気分になった。

シェライラ様の呪いを解除したことに後悔はなかった。

でも、母のこんな姿を見たかったわけでもない。苦しませたかったわけでもない。


「お母様の、呪い返しの半分、今すぐ解除します!」


さっきの話の内容通りであれば、未知の領域以外は普通に解呪できるはずだ。


「……解呪ディルペルカース!」


普段よりも少し魔力を込めて唱えた呪文は、母の体の中にすっと入っていった。

一瞬、母の体が淡い光に包まれた。だが、それだけだった。

シェライラ様の時のように、体の中から真っ黒い呪いの文字が出てこなかった。

解呪に失敗したのだと思ったが、母は驚いた顔をしていた。


「今のがジルクスの力なのね。体の中にあった黒いモヤモヤしたものが消えて、すっきりした感じだわ」


ボクは目を瞬かせた。

それって、つまり失敗じゃないってこと……ちゃんと解呪できたってこと。

母の呪い返しは、半分だけだが解除できたということだ。


「残り半分も、治してみせます。ボクは魔法学院へ入るのですから!」

「そうだったわね。入学おめでとう」


穏やかな微笑みを浮かべた母に、治すという約束をして部屋を出た。

本当は、もう他の人を呪わないでね!って言おうと思ってたけど、言えなかった。


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