18.妹は妖精よりも可愛らしいです
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マイン兄が卒業して、シルルが入学してきた。
シルルは妖精みたいな可愛らしさから、学院中の男を虜にしそうだ。
見た目は妖精だけれど、中身は王女だからね。
マイン兄みたいに魅了されないようにしっかり見ておかねば。
シルルが異母妹だって知ったサイラスは、紹介してくれってうるさい。
「シルルはボクとの関係を内緒にしているようだし、自分でなんとかしろ」
って言ったら、真に受けて、すぐにシルルにアタックしに行ったようだ。
もちろん、初戦は惨敗。
どういう風に話しかけたかって聞いたら、バカだなと思った。
「王宮で見かけた時から、好きでしたって伝えたら、どなたかと間違ってらっしゃるのではって返されて……」
「それ、どこで言ったんだ?」
「……学院の入口で……」
人前でってやつだった。
王族であることを内緒にしてるのに、王宮で……なんて意味ありげなこと言ったら、知らないフリされるに決まっているだろう。
恋は盲目とはいうけれどねぇ。
もう少し、配慮しろって言っておいたけど、どうなるかな。
サイラスのこともあって、心配になったからシルル宛に代行便を送った。
『マイン兄とは学院生活中にとても仲良くなった。できればシルルとも仲良くなりたい。
だが、ボクが直接会いに行けば、王族だってバレてしまうだろう。
なにか問題があれば、代行便を使うといい。できる限り手伝うよ。』
すぐにシルルから返事があった。
『今すぐに相談したいことがあるの。どうすればいい?』
そして、マイン兄と同じように、個別談話室を借りてシルルの悩みを聞くことにした。
「……施錠……隔離……閉鎖」
シルルの目の前でスキルを使うと、マイン兄と同じように驚いた顔をしていた。
1年くらい前のことだけれど、思い出してくすりと笑ってしまった。
「ジルお兄様って、治癒以外の魔法も得意なんですの?」
「ああ、魔法は全般的に使えるよ」
状態:驚愕のシルルは、少し顔が赤くて可愛かった。驚いてるというより、興奮しているのに近いのかもしれない。
「それで、相談って?」
シルルはハッとしたような顔をして、話し出した。
「実は、あたくし、すごくモテるみたいなんですの」
「……いまさら?」
つい本音がぽろっと出てしまった。
シルルは王宮からほぼ出してもらえず、というより引きこもっててずっと薔薇を育てていた。
ローズガーデンは王族専用というより、シルル専用のようなものだったのだ。
ボクの目から見ても本当に愛らしくて可愛らしくて、閉じ込めておきたくなる。
そんなシルルが日の目に出れば、モテないはずがない。
自覚が全くなかったのだろう。
「そ、それで……、どういった対処をすればよろしいのかしら」
ボクには生まれる前の記憶があったから、対処できていたが、初心なシルルには難しいのだろう。
「そうだね、まずは嫌なものは嫌とぼそりとつぶやいてみるとかかな」
「それは、どうしてですの?」
「例えばシルルが『しつこい男は苦手』ってつぶやくと、しつこい男子は減る」
「……本当ですの!?」
大きく頷いて、あれこれ教えた。
「他には『お昼は女性のお友達と過ごしたい』と言えば、理解力のある男子はシルルの思い通りにさせてくれる」
「……なるほど」
「それでも、つらかったら、いっそのこと王族だってバラして、ボクと一緒に過ごすんでもいいし、マイン兄みたいに婚約者を決めて、べったりと過ごすのもいいね」
「……少し考えてみますわ」
そう言って、シルルの相談は終わった。
数日後に見かけたシルルは男子に対して、女王様に成り果てていた。
シルルとは1mほど離れた位置に従者のように付き従う男子が数名。
シルルに近づこうものなら、追い払いシルルの平和を守っているようだ。
そしてシルルは男子に守られつつも、女子の友達を作っていた。
友達との関係も良好のようだ。悪そうなスキルを持った友達はいない。
心の中で、よかったよかった……と、思っていたのだが……。
「ジルお兄様っ!」
シルルはこっそり見ていたボクのもとへ走ってきた。
周囲の空気が一気に変わった。
「お兄さまって……まさか……」
「きっと、媚びを売りに……」
「もしかしたら、本物の妹様かもしれないし……」
ボクの周囲の令嬢たちは、シルルに対して悪い態度を取り切れないようだ。
シルルと言えば、くすくすと笑いながら、ボクの腕に絡みついた。
「……いいのかい?」
「これでお互いに虫がつきませんわ」
シルルは小声でそう答え、くすくすと笑っていた。のだが……。
「ジルクス!」
サイラスの声が聞こえた途端、びくっと震えあがった。
シルルの顔色が一気に悪くなる。
サイラスが近づいてくるにつれて、ガタガタと震えだした。
「……お、お兄様、助けて……!」
サイラスよ、一体なにをしでかしたんだ……。