16.ボクだって時々怒ります
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残酷な表現があります。
公爵令嬢たちの従者がニヤニヤとしながら、リュミリアナ嬢の髪を掴んだ。
その瞬間、ボクの目は大きく見開かれ、何かが弾けた。
ぷちんっ
「女の髪を軽々しく触るなぁぁああ!」
髪は女の命っていうだろう!
髪の毛引っ張られて首がもげそうなくらい痛かったんだから!
貴族の女性が髪を切るのは死ぬのと同じと言われてるんだから!
入れないと思われていた部屋の中へ一歩足を踏み入れた。
「……全防御……鎌鼬……圧縮……氷矢」
手加減なんて考えられなかった。
考える間もなく、発動言語が飛び出していた。
リュミリアナ嬢の髪を掴んでいた手が勢いよく弾かれた。見えない何かに守られて、風がかすることも冷気を感じることも全くない。
弾かれた従者には、従者を囲むような竜巻が起こり風の刃が全身の表面だけを切り刻んだ。体の表面をことごとく切り裂かれ皮がびりびりに破れ、もとの顔さえもわからない。焼かれるような痛みで従者は転がり、転がって地面とこすれることでさらに暴れて呻いた。
令嬢たち2名には体の周囲から圧力がかかり、ピキリという音がした。まともに息も出来ずに膝からくずれおち、その場で服に黄色い染みを広げた。骨の一つくらいは逝っているだろう。
ナイフを向けようとしていた従者には、両手首、肩、腰、太もも、膝、足の甲に3cmほどの氷の矢が刺さり、地面に転がった。こちらは暴れることなくその場で呻いていた。
ひとしきり苦しんでいる様子を見たあと、魔法を解き、別の魔法を掛けた。
「……束縛!!」
リュミリアナ嬢以外の4名が全く身動きできなくなった。まるで見えない縄で縛られているように。
ふぅっと息を吐いた。
「……解放」
閉鎖の対義語、解放の魔法で閉鎖を打ち消して、マイン兄とサイラスが入れるようにした。
叩いていた見えない壁がなくなり、転がるようにマイン兄が部屋の中へ入ってきた。
「ミリア!」
マイン兄はすぐに落ちていたナイフを拾って、リュミリアナ嬢の枷を外した。
「……マ、イ」
声を出すのもやっとなのだろう。リュミリアナ嬢はガタガタと震えていた。
その震えは恐怖のせいというより、痛みのせいかもしれない。
「マイン兄!少し離れて」
「しかし!」
「無理に触ると傷が痛いんだよ」
マイン兄はハッとしたような顔になり、ほんの少しだけ離れた。
ボクはリュミリアナ嬢の頭に右手を当てて言った。
「サイラス、先生とか警備の人呼んできてー。マイン兄、たぶんボクもたないから、あとよろしく」
「あ、ああ」
「……大治癒」
残ってる魔力全部を使い切って、リュミリアナ嬢の傷の大部分を治したところで意識を失った。
あとで聞いた話によれば、リュミリアナ嬢の傷はほぼ全部治っていたらしい。
サイラスが呼んだ先生たちによって、ボクは医務室へと運ばれていった。
公爵令嬢たちの処分は、公爵家から縁を切って監獄並みに厳しいと言われている北の修道院へ送られることになった。
実際に手を出した従者2名は、犯罪奴隷として鉱山送りになった。




