15.結婚式の始まりです
ミアにプロポーズしてから一年……ボクの誕生日が訪れた。
ついに今日、ボクはミアと結婚する。
王都最大の大聖堂の中、三つある入口の左側からミアが、右側からボクがゆっくりと歩み、中央にいる教皇の前まで進んでいく。
ボクはエメラルドグリーンのタキシードにネクタイという一つ間違えるとお笑い芸人か演歌歌手かといった服装を着ている。顔立ちが良いのでおかしく見えないのが救いだ。
ミアは光沢のあるガーネット色のAラインドレス。ところどころに黒い布が使われている。髪と瞳の両方の色を取り入れたドレスは渾身の作だそうだ。頭には花飾りと侍女たちが総出で刺繍した真っ赤なフェイスベール。
教皇の前で向かい合って並ぶとミアが照れ臭そうに笑った。
ボクはため息が出そうなほどかわいいミアの姿に見惚れて、うまく笑えなかった。
ボクたちの背後、新郎新婦が歩いてきた道の間に、親族が座る席がある。
そこにボク側の親族が十二人、ミア側の親族が二十人座っている。
赤ちゃんや子どもも含まれているけど、みんな静かにしているらしい。
静かな大聖堂の中で、教皇は何も見ずに世界の成り立ちを語ると、次にボクたちに尋ねてきた。
「新郎は新婦を永遠に愛することを誓いますか?」
「誓います」
「新婦は新郎を永遠に愛することを誓いますか?」
「誓います」
前世と同じ『結婚の誓い』というものだ。
お互いに誓うと告げると、天井から淡い光が降り注いだ。
「おおお! 神があなたたちを祝福しております」
マイン兄の結婚式のときはこんなことなかったけどなぁ。
きっと何かの演出だろうと思ってスルーして、書面に誓約を書き込んだ。
続いて花の交換……ボクの紋章花であるヤエザクラって花束にはしづらいので、一枝だけミアのドレスの襟元にそっと飾るだけにとどめた。
ミアからはスウィーニー侯爵家の紋章花のコチョウランをタキシードの胸ポケットに飾ってもらった。
次はボクのワガママである指輪の交換だ。
助祭が指輪の入ったケースを持ってきて、教皇に渡した。
頼んでおいた指輪はぱっと見、大きく見える。
無言でボクがミア用の指輪を取り出して、ミアの左手の薬指にはめる。
銀色の指輪は、金環のときと同じように淡い光を放ちながらシュルシュルと音をたてて、ミアの指にぴたりとはまった。
「なっ!」
教皇が目を見開いて驚いているのがわかる。
ミアも同じようにボクの左手の薬指にはめると、さきほどよりもまばゆい光を放ちながらはまった。
どういう仕組みなのかはさっぱりわからない。
まあ、ボクとしては満足なので気にしない。
そして、誓いのキス。
これは恥ずかしいからという理由で頰にすることになった。
向かい合って、ゆっくりと刺繍がたっぷり入ったベールをめくり、そっと頰に唇を当てる。
ミアもボクの頰に唇を当てる。
目が合った瞬間、顔がカーッと熱くなるのを感じた。
えええ……頬にキスしただけなのに、なんでここまで熱くなるの!? 別に初めてってわけでもないのに!
ミアも同じように顔を赤くしている。
親族に見られているというのが原因かもしれない……うう、恥ずかしい。
これで結婚式は終わり。
ボクとミアは中央の道を手を取りながら歩いて、外へ向かう。
「今日から奥さんだね」
歩きながらそう声をかけると、ミアは先ほどよりも顔を赤くしながら言った。
「ジルは旦那さんだよ」
慌ててつないでいないほうの手で顔の半分を隠した。
旦那さん……旦那さん……ああどうしよう、なんかもうすべてに照れてしまう。
顔が真っ赤なのはバレバレだろう。せめて、口がにやけているのは隠しておきたい……。
このあとはパレードだ。