13.公爵位を賜ることになりました
父が急遽開いた『紳士だけの夜会』には思っていたよりも多くの貴族が出席した。
スウィーニー侯爵もいるにはいるけど、壁に持たれて動向をうかがっているようだ。
「ジルクスが賢者だということがわかってな」
父は各貴族に挨拶をされるたびに、さらりとボクが賢者だということを話していく。
それを聞いた者の反応は、ただただ驚く者、ニヤニヤと笑いながら良いことだと褒める者、無関心を装う者など様々だった。
ボクはそれを遠目で見ながら、他の貴族たちと挨拶を交わす。
賢者だということに興奮している者が数名いて、たぶん彼らは今のところボクを支持している者ではないのだろうと思った。
演技っぽくなかったしねぇ。
次に昨日の会議に出席していた若い高位貴族がやってきて、小声でボクに国王になるよう勧めてきた。
「ジルクス殿下の賢者としての知識で国を支えていただきたい」
あまりにも頭の悪い発言すぎて、蔑みの意味を含めた笑みを浮かべてしまった。
この世界の〈職業:賢者〉というものは、あらゆる魔法に精通している者に与えられる称号のようなものだ。
魔術・治癒術・生活魔法の知識が豊富なだけで、国を治める知識があるわけではない。
魔法の知識で国を支えろなんて言われたら、頭悪いと思っても仕方ないよねぇ?
どうやら、ボクの笑みを肯定として受け取ったようで、若い高位貴族は先ほどよりも大きな声で言った。
「ぜひともジルクス殿下に国を支えていただきたいのです!」
そう言った途端、若い高位貴族の周りにいた者たち……取り巻き連中が口々にマイン兄の悪く言い始めた。
「カーマイン殿下のお力では国を治めるのは難しいのです」
「そうでございます! カーマイン殿下の力は不足しております!」
「カーマイン殿下は何も功績を残しておりません!」
ボクが何も言わないからと、彼らはどんどん増長していく。そして……。
「ジルクス殿下もお思いでございましょう? 側室からお生まれになった第一王子よりも正妃からお生まれになった第二王子である自分が国王になるべきだと……」
「は?」
ボクの中のイライラゲージはマックスになった。
その話は、マイン兄が王太子になるって決定したときに話は済んでいるんだ。
ボクよりもマイン兄のほうが政治面において良いスキルを持っていること、ボクに国王になる意志が全くないことなどをはっきりさせて決まったんだ。
それをまた蒸し返して、どうにかしようっての?
ああもう! ホント面倒くさい!!
「お前らみたいに頭の悪いやつが高位貴族なんかやってるから国を治めづらいだけだろうが! 身の程を知れ! ……細 氷!」
前にパマグラニッド帝国の元皇帝に使った最上級魔法を使った。
五十センチほどの細い氷が多数現れて、ボクの周囲に浮かぶ。そして、一斉に若い高位貴族とその取り巻きたちの足元へと刺さっていく。突き刺さった場所からどんどん周囲を凍らせていく。
「「「うわあああああああ!!!」」」
彼らは凍り付く体に驚き、叫んだ。
「やめなさい!」
そこへ年老いた高位貴族が現れて、ボクを諫めようとした。
「お前も彼らと同罪だろう? ……吹 雪!」
今度は上級魔術を使って年老いた高位貴族を雪で固めた。
「ぐおおおお……」
身動きできなくなった年老いた高位貴族も若い高位貴族たちと同様に叫んだ。
そこへ、真っ赤な髪の人物が現れる。
「ジル……やめるんだ」
ボクはじっとマイン兄の目を見たあと、ひとつ頷くと彼らに掛けていた魔術を解いた。
「ついでに、治癒術も施してあげよう」
「マイン兄の頼みなら仕方ないね…………範囲中治癒」
淡い光が年老いた高位貴族と若い高位貴族、その取り巻きたちに降り注ぐとあっという間に痛みが引いたようで呻き声がおさまった。
それを見ていた他の貴族たちから感嘆の声が上がる。
「お前たちもわかっただろう。ジルクスはお前たち高位貴族の言いなりにはならない。カーマインの言葉であれば素直に聞く。誰が国王になり、国を治めるべきかなどいまさら議論する必要などない」
ボクの背後から父が現れてそう言った。
父の言葉を聞いた貴族たちは、なぜかその場で膝をつき忠誠のポーズを取った。
こうして、ボクとマイン兄、父の演技によって、ボクが国王になるべきだ~という話は流れた。
のちのち聞いた話によれば、マイン兄がボクの手綱を握っているということになっているらしい。
ボクとしてはそう思われているほうが楽でいい。
っていうか早々に王族から公爵にしてくれたほうが、王位継承権争いから外れられると思うんだよねぇ。
だって、マイン兄たち夫妻にはすでに一歳になるグレイ王子がいるんだよ。
ボクの王位継承順位は第三位になっているというに高位貴族って頭悪い者ばかりなのかねぇ。
今回のようなことがないように父とマイン兄にすぐに公爵にしてくれと頼んでみたら、結婚と同時になってもいいということになった。
同時ってことは……結婚後は王宮じゃなくて、王都に住むってことじゃないか!
新居を決めて家具選びをしないと!