12.ホント面倒くさいです
一時間後、息を切らせながら中央の騎士団長が会議室へとやってきた。
「ジルクス殿下を鑑定してくだされ」
年老いた高位貴族が懇願するように中央の騎士団長へ言った。
中央の騎士団長は、一度ボクの顔を見たあと、父の顔を見て言った。
「我々は陛下に忠誠を誓っております。陛下のお言葉であれば、鑑定いたしましょう」
父はため息をつき、嫌そうな顔をしながら言った。
「ああ、鑑定してくれ」
中央の騎士団長は父からボクは視線を移した。
おっと、隠蔽スキルを解除して見えるようにしないと……と言っても、『転生者』っていうのは見えないんだけどねぇ。
「では、失礼いたします」
中央の騎士団長は一礼したあと、ボクを鑑定し始めた。
だんだんと驚きの表情へ変わったかと思えば……青ざめていく。
ボクのステータスというか、職業欄とスキル欄って普通の人から見れば異常だもんねぇ。
「ど、どうだ? ジルクス殿下の職業は賢者で間違いないか?」
年老いた高位貴族がそう聞いてきた。
すると中央の騎士団長はボクの顔をじっと見つめたあとに言った。
「ジルクス殿下は賢者でございます」
「やはりそうか!」
「間違いではなかったんだな……」
「さすがジルクス殿下でございますね」
称賛だか、持ち上げだかわからない言葉をいくつも言われたけど、嬉しくない。
「やはり、ジルクス殿下は賢者でございました。そうであれば、王位継承権はジルクス殿下にお譲りすべきです」
年老いた高位貴族の言葉に他の高位貴族たちがそうだそうと口々に言った。
「ジルクスはどう思っているんだ?」
父が聞いてきた。
「そんなもの、五歳のときから国王になる気は全くありません」
きっぱりと断ると、高位貴族たちが説得にかかった。
ああもう、ホント面倒くさい……。
結局この日は話がまとまらずに会議はお開きとなった。
あれ? そういえば、スウィーニー侯爵は一言も発言していなかったよなぁ。
高位貴族として集まったけど、ボクを国王に据えることは反対なんだろうなぁ。
もし、ボクが国王になったら、ミアは王妃ってことだもんねぇ。
王族と結婚させたくない、苦労するに決まってるって言っていた人だからなぁ。
***
結婚の準備や領地巡りで忙しいっていうのになんでこんな面倒なことが起こるんだ。
しかも、ボクを無視して話を進めていくとか……面倒すぎる!
イライラした気持ちを抱えたまま、ボクは晩餐のあと、父の私室へと殴り込みにいった。
そこには苦笑いを浮かべたマイン兄もいた。
「来ると思っていたよ」
「予想どおりすぎるな」
マイン兄と父に言われて、顔が赤くなった。
「すべては高位貴族たちが悪いんですよ! ボクは国王になる気なんかさらさらないんです。マイン兄を支える王弟としてはがんばるつもりですけど、それ以上はしません」
そういうと、父がニヤリと黒い笑みを浮かべながら言った。
「では、お前も手伝うといい。明日、ジルクスを支援するものたちを集めて紳士だけの夜会を開く。そこでお前はうるさい高位貴族たちを黙らせろ」
「それは力で……になりますけど?」
ボクが口で言って聞くようなやつらじゃないのは、今日の会議でよく理解している。
となれば、ボクは力……魔術を駆使することになるんだけども?
「うん、それでいいよ。そのあとは私がなんとかするから」
マイン兄も父とそっくりな黒い笑みを浮かべながらそう言った。
具体的にどういったことをすればいいかの話をしたんだけど……なるほどねぇ。
やっぱり、マイン兄のほうが政治に向いているよ。
ボクじゃこんなこと思いつかない。
「明日の夜が楽しみだね」
「ああそうだな」
「思う存分やりますね」
ボクまで父とマイン兄の黒い笑みがうつったようだ。
まあでも、楽しみなんだから仕方ないよねぇ。