04.相変わらず懲りない人でした
ミアと話し合った結果、来年のボクの誕生月に結婚式を挙げようということになった。
それを父とマイン兄に報告すると次にすべきことを教えてくれた。
数日後……ボクは父が個人的に書いた手紙を持って、スウィーニー侯爵家を訪れた。
王家の紋章入りの馬車で伺うと、執事や侍女、侍従たちが総出で出迎えてくれた。
どういった用件で伺うかを連絡してあって、総出での出迎え……これって歓迎されているってことだよねぇ。
嬉しくなって頰が緩みかけたけど、今日はしっかりとしないとだから……すぐに気を引き締めた。
笑顔の執事に案内されて、応接室に向かうとそこにはミアと侍女のリザベラが待っていた。
小花柄のワンピース姿のミアは、普段よりも愛らしく見える。
座り心地の良い三人掛けのソファーにミアと一緒に座ると、すぐにリザベラが紅茶と茶菓子の用意を始めた。
リザベラは不機嫌そうな顔をしつつも紅茶と茶菓子を運び、カートをその場に置いたままミアのそば近くに控えた。
普段であれば、カートを片付けたあとミアのそば近くに控えるんだけどねぇ?
ボクは紅茶を啜ると言った。
「まだ先の話になるけど、リザベラも王宮へ来るの?」
「一緒に来てくれたら嬉しいけど、でも、リズにも都合があると思うし……」
ミアはそう言うとちらっとそばにいるリザベラの顔を見た。
リザベラは口を開けて、何か言いたそうにしていたけど、結局、口を閉じてぐっと堪えたようだ。
「まだ時間はあるから、そこはしっかり話し合うといいと思うよ。ボクはリザベラが来ることに賛成だから」
ボクの言葉を聞いたリザベラはいつもどおりの無表情で態度を崩さなかった。
でも……〈状態:驚愕、歓喜〉ってなっているから、心情はバレバレなんだけどねぇ。
紅茶を飲み干してもスウィーニー侯爵が現れない。
いや、本当はずっといるんだけどねぇ。
「前にもこんなことがあったよね」
「うん」
「懲りない人だね……」
スウィーニー侯爵は、リザベラが紅茶をカートで運んできたときからずっといる。
三年前、ミアと婚約する許可を得に来たときと同じようにカートの裏に隠れているのだ。
「しょうがないな……ミア」
「なあに、ジル?」
ボクはミアの腰に手を回して体を引き寄せる。ミアは以前と違って自ら両手をボクの肩へと回す。
お互いに見つめ合ってだんだんと顔を近づけようとすれば……。
「それ以上はならん!!」
三年前と全く同じセリフを吐きながら、スウィーニー侯爵がカートの裏から現れた。
ボクとミアは笑い合ってから、顔を離した。
スウィーニー侯爵は何事もなかったかのように、一人掛けのソファーに座ると視線を窓へと固定させた。
ボクは笑いを堪えつつも、姿勢を正した。
「結婚の許可をいただきに参りました」
ボクはそういって、テーブルの上に父個人の紋章が押された封蝋が見えるように手紙を置いた。
「むう……またしても陛下からの手紙か……」
スウィーニー侯爵は渋々と父からの手紙を受け取るとそっと封を開け、目をとおし終わるとまた視線を窓へと固定させた。
どういった内容の手紙かは知らないけど、スウィーニー侯爵の口がさっきよりもへの字になっているため、よほど嫌なことでも書かれていたのかもしれない。
「ミアを……誰よりも大事にすると神よりも先に誓います。結婚の許可をいただけますか?」
「私からもお願いします」
ボクとミアの言葉を聞くと、スウィーニー侯爵は視線を窓からボクへと移動させて言った。
「ミアだけでなく、これから生まれるだろう命も大事にすると誓え……」
それって、ミアとの間に生まれるだろう子どものこと……だよねぇ。
ちらっとミアの顔を見たら、恥ずかしいようで顔を真っ赤にして下を向いていた。
子を持つ親ならではの考え方に嬉しくなった。
「ミアとこれから生まれるだろう子どもを誰よりも大事にすると誓います」
そう言い直すと、スウィーニー侯爵は泣き笑いの表情になりつつも大きく何度も頷いた。