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14.乙女ゲーの世界かと思いました

 ボクの後押しもあって、マイン兄はリュミリアナ嬢と良い関係になれたようだ。

 なんだか、自分のことのように嬉しかった。

 すぐにでも婚約したいって言っていたけれど、あの女を片付けるまでは待ってもらうことにした。


 そう、ラフィリア嬢クソビッチのことだ。

 あの女はまるで「乙女ゲーのヒロイン」のような動きをしている。

 色んな男を手玉に取って、のし上がっていく姿は、現実で見てしまうと気持ちが悪いものだ。

 ラフィリア嬢が本気でマイン兄を愛しているのであれば、違う展開にもなったのだろうが。

 どう見ても、ちやほやされたいとか王族を侍らせて私ってすごいのよって言っているようにしか見えなかった。

 さすがにこのまま放置というわけにはいかない。

 ならば、きっちり「乙女ゲーのヒロイン」を演じてもらうだけだ。


 ラフィリア嬢の魅了への対策として、マイン兄にはラフィリア嬢と目を合わせないようにしてもらった。

 夜会から数日の間にラフィリア嬢とは離れたので、公爵侯爵家の令嬢はほっとしているようだった。



 さて、どういった方法で近づこうか。

 この間の個別談話室での出来事があるから、代行便で呼び出しても現れない可能性がある。

 お昼はローテーションの令嬢に捕まっているため、抜け出せない。

 待ち伏せなども、ボクの周りの令嬢がいて難しい。

 となれば、チャンスは夜会しかないだろう。

 一か月後の夜会で決行することにした。



 夜会の日、ボクもマイン兄もパートナーを連れずに参加した。

 マイン兄はリュミリアナ嬢をエスコートしたくて仕方なかったようだが、今回は我慢してもらった。


 いつものように、夜会の会場では、ボクの周りにも令嬢たちが付いて回った。

 美男美女、宝石ドレス刺繍髪飾り……いつもだったら、気になって見ているのに今回は全く目に入らない。

 視界に入れているのは、ラフィリア嬢だけだ。

 周りの令嬢たちも、ボクが一点しか見ていないことに気が付いたようだ。

 ダンスの音楽が鳴り、会場の中央が広く開けられた。

 ボクは。まるで導かれるようにラフィリア嬢のもとへ向かった。

 人垣が割れていく。

 ラフィリア嬢は背を向けていたのだが、周囲の人の動きに気付き、こちらを見た。

もちろん、状態:驚愕(隠蔽)状態になった。


「初めまして、レディ。ボクと踊っていただけませんか?」


 ボクはラフィリア嬢の手を取り、軽く跪いた。周囲の女性たちから、悲鳴のような声が響く。それは羨望の声であり、驚きの声であった。

 そう、羨望が含まれているのだ。

 プライドの高いラフィリア嬢がこの状態で手を振り払うことができるだろうか。


「……喜んで」


 できませんよねぇ。

 ボクのような男性に声を掛けられて、振り払うようなことがあれば、なんて傲慢な女だと見なされるのわかってますとも。

 ボク自身もイケメンの分類だってことは、自意識過剰ではなく周囲の行動で理解してる。

 別にナルシストではないので、鏡見てイケメンだぁうっとりなんてことはないよ。


 ラフィリア嬢の手を取り、ダンスフロアへ向かった。

 ほっそりとした腰に手をあて、微笑みながらダンスを踊った。

 ちらりと周囲を見やれば、羨望の眼差しがたくさん見受けられた。

 そりゃそうだ。ボクが入学して初めて踊ってるんだからね。

 ボクの初めてをくれてやったんだから、せいぜい楽しむがいい。


「なぜ、誘ったのですか?」


 ラフィリア嬢は少し唇をむっとさせながら言った。


「たくさんの方に見られています。その顔だとマズイんじゃないですか」


 注意すればすぐに、笑みを浮かべた。もちろん目は笑っていないけれど。その表情の変化におかしくなってこちらも笑顔になった。


「質問に答えておりませんわ」

「答えなくてもわかっているだろう?」

「……殿下に近づくなという意味でしょう」

「それもあるけど」


 ボクはとろけるような笑みを浮かべて見せた。ラフィリア嬢はそんなボクの笑顔を見て、少し頬を赤らめた。


「キミに興味が湧いたって言ったらどうする?」

「……そ、そんなことは……」


 ない、と言い切ることはできないようだ。ダンスの最中なのに、顔を俯かせてしまった。耳まで赤くなっているのが見て取れる。


 ボクだって、やれば出来る子なんですよ。

 ウソです。

 ボクがとろけるような笑みを浮かべた時点で、魅了スキルを発動しただけだ。

 心の底から「さぁ、ボクに魅了されるがいい!」と思いながら、使ったのだけれど、思った以上に効いたみたいだ。

 もしくはラフィリア嬢って根は素直なのかもしれない。

 とにかく、ラフィリア嬢は簡単に状態:魅了(隠蔽)にかかった。


 短い曲だったため、ダンスはすぐに終わってしまった。

 エスコートしながらダンスフロアから離れた。

 すぐにいつもボクの周りにいる女子…令嬢たちに囲まれた。


「ジルクス様、その女性とはどういった関係なのですか?」


 令嬢たちは口々にそういった内容のことを聞いてきた。

 ボクは何も言わずににっこり微笑んでから、ラフィリア嬢の腰から手を離した。

 そして、ラフィリア嬢を置いて、その集団から離れるように歩き出した。

 ラフィリア嬢は「え?」という声を漏らしていたが、聞こえないふりをした。


「あなたはジルクス様とはどういった関係なのですか?」

「どうやってジルクス様に取り入ったの?」

「私たちのジルクス様なのよ!」


 令嬢たちはラフィリア嬢に向かって問い詰めだした。


「ま、まって!ジルクスくん!」


 と、ラフィリア嬢が言った途端、場の空気が固まった。


「くん付けですって」

「ジルクス様になんて無礼な!」


 振り返れば、ラフィリア嬢は令嬢たちに壁際へと連れていかれていた。

 これで少しは懲りるだろうか。

 きっとしばらくは陰湿な嫌がらせを受ける日々だろう。

 ボクが掛けた魅了は、ラフィリア嬢では解除できない。

 解けるまでは他の男に魅了をかけて媚びを売るなど、できないだろう。

 気が済むまで、魅了を掛けたまま放置することにした。



 後日、聞いた話によれば、ラフィリア嬢は令嬢たちから陰湿な嫌がらせ…動物の死骸から始まり、画鋲入りシューズ、机や椅子への落書き、クラスメイトからの無視など…を受け、それでもめげずにお昼ご飯のローテーションに加わったようだ。

 噂を聞けば聞くほど、可哀想になってきたので次の夜会あたりで魅了を解除して、ラフィリア嬢自身の魅了を封印しようかな、なんて思った。

 それやるにはもう一度、踊らなきゃだろうけどね。



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