19.性別がわかりました!
皇妃のお説教が終わると皇帝とソフィア姫から謝罪があった。
ソフィア姫は反省している様子だったけど、皇帝は渋々といった感じ。
とりあえず謝罪を受け入れて、氷を溶かした。
でも、決闘場の時のように治癒術をかけたりはしなかった。
「謝罪は受け入れましたが、今回の件はセリーヌ王国へ持ち帰り、それ相応の対応を取らさせていただきます」
ボクがきっぱりとそういうと皇帝は鬼の形相になりながら叫んだ。
「なぜ持ち帰る必要があるんだ! 我が帝国には何も非はないだろう!!」
こんなのが皇帝で今までよくやってこれたよねぇ。
宰相が頭を抱えているあたり、皇帝は傀儡みたいなもので他の人たちが頑張っていたってことかなぁ。
ボクはため息をつきつつ言った。
「他国の王族の婚姻に口を出すというのが外交問題に当たるってわからないんですか?」
「実際には何もしていないだろう!」
愚帝すぎて会話にならない。
もう一度大きくため息をつくと、皇妃が皇帝に鋭い視線を投げかけた。
あれは睨むとかいうレベルじゃない。威圧とかそっち系のスキルを使ってるんじゃないかと疑うレベルで怖い。
「お返事はどうしましたの? クレメンテ様」
「りょ、了承した」
皇妃……いや、ヴァネッサ様のおかげですぐに了承の返事をもらえた。
ヴァネッサ様最強だねぇ。
その後、ボクは瞬間移動でセリーヌ王国へ戻り、父とマイン兄に現状を報告した。
『ボクの行動に一切異議を申し立てない』という条件で決闘を行ない、きっちり勝利を収めたこと。
他国の王族の婚姻に口を出したから外交問題として扱うこと。
皇帝はヴァネッサ様に頭が上がらないことなどを伝えた。
すると父とマイン兄は二人で見つめ合ってニヤリと笑い、ボクに言った。
「よくやった。もうしばらく皇妃の面倒を見てこい」
「さすがだね。今のうちにしっかりと皇妃に恩を売ってくるんだよ」
二人とも笑顔が黒いんだけど、大丈夫かなぁ。
ともあれ、父とマイン兄の勧めもあって、ボクたちはヴァネッサ様が安定期に入るまで帝国に滞在することになった。
滞在している間に、ミアとヴァネッサ様が念話できるように魔道具を作った。
ミアには今つけているイヤーカフに魔石を追加して、ヴァネッサ様にはネックレス型の魔道具にした。
ミア経由でプレゼントしたんだけど、喜びすぎてすごくはしゃいだらしい。
妊婦なんだから、落ち着いて! ってミアが注意をするほどだったらしい。
ヴァネッサ様のつわりが治まってきたころ、ボクはミアに連れられてヴァネッサ様の部屋を訪れていた。
「今日はジルクス殿下も一緒なのね。どうかなさいましたの?」
おっとりした雰囲気でヴァネッサ様がそう問うとミアは緊張した面持ちで答えた。
「今日はですね、そろそろ赤ちゃんの性別がわかる時期なので……」
「まあ! ついにわかるのね!」
「はい。万が一見間違ってしまったら大問題になりますので、他の治癒術師にも確認をしてもらうという形を取らさせていただきました」
「それでジルクス殿下が?」
「ジル……クス殿下は、私の治癒術の師匠なんです。腕に間違いはありません!」
ミアがあまりにも自信満々に言うものだから、ヴァネッサ様は目を見開いて驚いたあと、にっこり微笑んだ。
ボクはといえば、顔が熱い気がする。
「そう。それならお願いするわ」
ヴァネッサ様はそういうと目を閉じた。
「それでは失礼いたします。……妊娠検査!」
強い光がヴァネッサ様の腹部に集まると霧散して消えた。
ミアは喜びの表情を浮かべながら、ボクに向かって大きく頷いた。
結果は言わずにボクにも同じ治癒術を使えってことらしい。
「では、ボクも。……妊娠検査!」
ミアと違って淡い光がヴァネッサ様の腹部に集まりしばらく停滞したのち消えた。
ボクの脳内に情報が入ってくる。
まず、ヴァネッサ様は多少貧血ではあるものの健康なようだ。特に妊娠とともに発生しやすい病気にはかかっていないらしい。
次にお腹の中の子どもに関して……性別は男。体は小さいがすくすくと成長している。特に異常は感じられない。
「確認が終わりました」
ボクの声を聞き、ヴァネッサ様が目を開けた。
「それで性別は?」
「「男の子です」」
ボクとミアが声をそろえて言うとヴァネッサ様は目に涙を浮かべながら言った。
「そうなのね……」
ヴァネッサ様はゆっくりとお腹を撫で、微笑みを浮かべた。
部屋にいるみんなが静かにヴァネッサ様を見つめていたけど、しっかりと伝えるべきことは伝えなくてはならない。
「以前ミアから話を聞いたかとは思いますが、数日後ボクたちはセリーヌ王国へ戻ります」
覚悟していたのかもしれない。
ヴァネッサ様は目を伏せただけで何も言わなかった。
「ですが、無事にお産みになっていただくために定期検診を行ないましょう。だいたい月に一度くらいの頻度で、検診にうかがうと約束します。その際、ミアをとおして検診を行なってもいい日を決めましょう。いかがですか?」
どのようにミアと検診日を決めるのか、どうやって検診に来るのか、何も知らない人であれば気になる部分だろう。
でもヴァネッサ様には念話の魔道具を渡してあるし、ボクとミアが瞬間移動できることも知っている。
「ええ、いいわ。そのときはジルクス殿下もいらしてくださいね」
「承知いたしました」
それから数日後、ボクたちはヴァネッサ様に伝えていたとおり、パマグラニッド帝国をあとにした。
帰りはあちこちの町によって、珍しいものを買っていった。
王国内に入ってからは第二王子が来たって歓迎イベントを各所でしてもらって、代わりにお金を落とす努力をしておいた。
駆け足でしたが一応、6章おわりです
(もしかしたら、パパとお兄ちゃんの閑話を書くかもですが)
次は7章……ウェディング編入ります
ついでに……
「趣味はお菓子作りと覗きです!」https://ncode.syosetu.com/n7452er/
という短編小説を書きました
よかったら読んでいただけると嬉しいです!