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17.閑話:決闘中のミア

 ジルクスが決闘を行っている時間、ミアは皇妃ヴァネッサの診察をしていた。

 事前に決闘を行うことは聞かされていたけれど、ヴァネッサを放置して決闘場に行くことははばかれたためだ。


 ミアはいつもどおりを心掛けて診察を行っていたのだが……。


「何かありましたの? いつもと様子が違っていましてよ?」


 毎日接していたため、ヴァネッサに気づかれてしまった。


「えっと、その……」

「毎日、あたくしを気遣ってくださるだから、何かあるならおっしゃってちょうだい?」


 ミアはしばらく黙っていたけれど、意を決して話し始めた。


「実は……」


 皇帝クレメンテがジルクスとソフィア姫との婚姻に関する決闘を起こしていること。

 今現在、パマグラニッド帝国の国営決闘場にて、ジルクスと騎士団員が決闘を行っていること。

 騎士団員が勝利した場合、ジルクスはソフィア姫と婚姻する……つまり、ミアとは婚約破棄となること。

 ジルクスが勝利した場合、ジルクスの帝国内での一切の行動に帝国は異議を立てないものとすること。


「私のいない場所で勝手に婚約破棄を掛ける決闘が行われているのです」


 ミアは蚊帳の外状態であることをヴァネッサに伝えた。

 するとヴァネッサは目をくわっと見開いて叫んだ。


「まあ! そんなことがございましたの。では、今すぐに決闘場へ向かって止めなくては!」


 皇妃の部屋から決闘場までは、途中で馬車に乗らねばならない。

 この世界の馬車は揺れがひどいのがあたりまえで、そんな馬車に妊娠初期の女性が乗ったら……?

 ひどい揺れのせいで流産なることも考えられる。


「なりません! ヴァネッサ様は安静にすべき時期なのです!」


 ミアは慌てて、ヴァネッサを止めた。

 ちなみに、ミアは診察を重ねていくうちにヴァネッサを名前で呼ぶように言われていた。


「あたくし以外に陛下を止められる者はいませんわ。行かねば止まらないでしょう?」

「他の誰にも止められないとしても、今のヴァネッサ様を馬車に乗せるなんて、治癒術師として許可できません!」


 ミアは両手でヴァネッサに対して落ち着くように制した。

 そんなやりとりの最中、ミアがつけているイヤーカフが熱を持ち、念話が届いた。


【ミア? 決闘に勝ったよ】

【ホント!? よかった~……】


 ヴァネッサの目の前にいたのにもかかわらず、表情を一気に喜びのものへと変えた。

 急に喜びの表情へと変わったものだから、ヴァネッサは首を傾けて聞いてきた。


「どうしましたの?」

「決闘に勝ったって、ジルから連絡……あ!」


 ミアは気が抜けた直後だったため、今聞いた情報を口に出してしまった。

 どうやってジルクスから連絡を受けたのかがわからず、ヴァネッサは怪訝そうな顔を向けた。

 ミアは一瞬だけ、苦笑したあと気を取り直して説明を始めた。


「えっとですね、これは他言無用にしていただきたいのですが……。私とジルはこういったアクセサリー型の魔道具を使って、遠く離れた場所でも会話ができるのです」


 そう言って、ミアは左耳についているイヤーカフをちらりとヴァネッサに見せた。


「まあ! なんてすばらしい魔道具なんですの!」

「どれだけ離れていても会話ができるものなので、ヴァネッサ様にも同じような魔道具を渡すつもりでした」

「あら? どうして?」

「安定期に入りましたら、私は一度、セリーヌ王国へ戻るつもりだからです。私が王国へ戻っても、ヴァネッサ様から連絡があればすぐに駆け付けるつもりです」

「そこまであたくしの身を案じてくださるなんて!」


 ヴァネッサはミアの言葉にとても感動していたけれど、同時に疑問も持った。


「でも、連絡しても遠いもの。すぐには駆け付けられないわね……」


 それは少し悲しそうな姿だった。

 陣痛が来たと連絡を入れても、馬を取り換えながらセリーヌ王国からパマグラニッド帝国まで七日はかかる。

 七日もあれば、出産しているに違いない。

 普通の人であればそう考えるのがあたりまえなのだが……。


「いいえ。一度行ったことのある場所へなら、一瞬で移動できるスキルがございますので、すぐに駆け付けます!」


 ミアは普通ではないため、言葉どおりすぐに駆け付けることができる。

 と言っても、まだジルクスからスキルを教わっていないのだけれど。


「まあ! やはり聖女様は別格ですのね!」

「ヴァネッサ様……どなたから私が聖女だと聞かされたか存じ上げませんが、それはヒミツにしてくださいね」

「あら? 隠していらっしゃったのね」

「話が広まれば、教会本山に連れて行かれてしまいますから」

「まあ! それは困るわ。みんなも黙っていてちょうだいね」


 ヴァネッサにミアが聖女だと教える相手など、皇帝クレメンテ以外にいない。

 バラすなという脅しは効かなかったのだとわかり、ミアはこっそりとため息をついた。

 ここでヴァネッサにも口止めしておかなければ、本当に教会の本山と言われている場所に閉じ込められてしまいかねない。

 ミアは祈るような気持ちで口止めを行った。




 その日の夜。

 晩餐が終わり、各々の部屋で休んでいる時間……ミアはジルクスの部屋の中にいた。


「ジル! お願いがあるの!」


 ジルクスは昼間行った決闘の疲れも見せずに、ミアに笑いかけた。


「なぁに? できることならなんでもするよ」


 頼られて嬉しいのかジルクスは満面の笑みでミアを迎える。


「瞬間移動のスキルを教えてほしいの!」

「ああ、王国を出発する前に鑑定し合おうって言っていたのにできていなかったもんね。じゃ、今すぐしようか」

「うん! ありがとう!」


 ジルクスとミアはお互いに向かい合って、鑑定を始めた。

 ミアのステータスの職業欄は以前と変わらなかったが、スキル欄には刺繍やダンスなど、令嬢として生きていくうちに自然と覚えていくものが追加されていた。

 逆にジルクスは、職業欄に庭師が追加されていた。ヤエザクラを植えた影響からだろう。

 そしてスキル欄にはありとあらゆる方面のスキルが追加されていた。

 ミアはそれを見ていき、覚えたいものだけ覚えていった。

 もちろん、瞬間移動のスキルも覚えた。


「前にみたときよりもすごくたくさん増えていて驚いちゃった!」

「ミアも令嬢系のスキル覚えたんだね」

「うん。ジルの隣にいて不足なしって思われたくってね」


 そんな会話をしているときだった。

 ミアはジルクスの魔力がとても減っていることに気がついた。

 ここまで減っていた場合、普通の人であれば疲れた表情になるものなのだが、ジルクスは顔に出さないようにしていたようだ。


「ねえ、ジル?」

「なぁに、ミア?」


 ジルはミアに名前を呼ばれるだけで嬉しそうに笑った。

 ミアはジルクスの手を引き、ベッドのそばへ向かい、ふちを指した。


「ここに座って?」

「うん?」


 ジルクスはミアに言われるがままベッドのふちに座る。

 ミアはジルクスの正面に立ち、両手をつないだあと、にっこり笑って言った。


「ジルはこのあとすべきことってある?」

「特にないけど、どうしたの?」


 ジルクスは甘い雰囲気を感じて、ミアを引っ張ろうとした。


「それならいいよね? ……睡眠(スリープ)!」

「……へ……?」


 転生者同士はお互いに触れ合うことで魔法を掛けることが可能。それは両手を繋いでいると特に効果が高い。

 というものを利用して、ミアは疲れているジルクスに睡眠の魔術を施した。

 魔力の回復は眠るのが一番早い。

 ジルクスは睡眠の魔術が掛かるとそのままベッドに倒れていった。

 

「よいしょ!」


 ミアは、ジルクスの足をベッドの上に載せ、丁寧に靴を脱がし、床に置いた。


「ゆっくり休んでね!」

 

 そう言い残し、部屋を出て行った。

イチャイチャじゃなくてごめんなさい(苦笑

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