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11.報連相は大事です

 賓客の間で休んでいたら、イヤーカフが熱を持ち始めて、ミアから念話が届いた。


【ジル~! 皇妃様の診察終わったよ】

【お疲れ様。結局、どんな病気だったの?】

【皇妃様はね、病気じゃなくて妊婦さんだったの】

【あ……体調悪かったのって、つわりだったってこと?】

【そうなの。ジルはそのあたりわかるんだね】

【最低限の知識だけどね】


 前世での友人が妊娠したとき、つわりでしんどいとよく愚痴っていた。

 友人は恵まれた職場にいたようで、同僚の女性たちは労わってくれたし、男性たちは重いものを運ばせないようにしてくれて、助かったって言ってたっけ。

 逆に一部だけど、生理痛や妊娠などに理解のない男性も……いや、女性もかな……存在してるってネットのニュースで見たなぁなんていう遠い昔を思い出した。


【しかし、十九年ぶりの妊娠か。……皇妃の年齢っていくつだろう? 十六で結婚したとして、すぐにソフィア姫を産んだとしたら、今は三十五歳くらいかな。一応、高齢出産扱い?】

【初産じゃないから、ちょっと違うかも。あ! 今世では高齢出産だね】


 前世の知識と今世の知識が混ざってあたふたしつつ答えたミアがなんだかかわいかった。

 今世では、貴族は特に早期に婚姻するため、三十歳過ぎてから子どもを産むと高齢出産と言われる。

  

【安定期に入るまでは様子を見ていたほうがいいかも……】


 ミアは不安そうな声でそう言った。

 安定期ってたしか……妊娠五か月くらいだっけ?


【皇妃の安定期っていつくらいになるのかな?】

【たぶん、三十日後くらいだと思う】


 生理が来なくなった時期など詳しく聞いて計算したのだろう。


【その間、ずっと帝国に留まっていたほうがいいってことだよね?】

【うん……】


 もともとどんな病気であっても十日程度の滞在は覚悟していた。

 それを伸ばすのであれば、一度父たちに相談したほうがいいだろう。


【父やスウィーニー侯爵に相談しようか。隙を見て、ボクが瞬間移動で王宮まで戻るよ】

【一緒に行きたいけど、リズが離れてくれないと思うから……父様宛にお手紙を書くから届けてもらってもいい?】

【もちろん、おまかせあれ】


 ボクがそう言うと、ミアはくすくすと笑った。



 その日の夜、ボクはミアの手紙を携えて、セリーヌ王国の王宮にある国王の執務室へと直接、瞬間移動した。

 たぶん、この時間であれば、執務室に父がいるだろうと思ってのことだったんだけど……。

 

「……」

「……さすがジルだね、やることが違う」


 目の前にいたのは、父とマイン兄だった。

 二人はちょうどソファーに座って話し合いをしていたようだった。

 父は眉間に皺を寄せて驚きを隠し、マイン兄は目を見開いて驚いたあと、嬉しそうな表情へと変わった。


「早馬で手紙を送るのでは対策が遅れそうだと思ったので、瞬間移動のスキルを使って戻りました」


 ボクは真面目な顔をしてそう言うと、父もマイン兄もすぐに真面目な顔へと変わった。


「何かあったのか?」


 父の問いにボクは大きく頷いたと、答えた。


「実はパマグラニッド帝国の皇妃は、病気じゃなくて妊娠してたようです」


 たったそれだけで、父とマイン兄は思考を一気に巡らせてあれこれ考えているようだった。

 パマグラニッド帝国の場合、男の子が生まれたら継承権が第一位になるからなぁ。


「診察したのはミアなんですけどね。皇帝があまりにも嫉妬深くて男であるボクは近寄らせてもらえませんでした」


 苦笑いを浮かべて言えば、父の眉間に皺が寄った。

 父の中では、セリーヌ王国一の治癒術師はボクってことになってるんだろうけど、本当は聖女であるミアが一番だから、今回に限ってはボクではなくミアが診察したのは正解だったんだよ。

 なんてことをはっきり言うわけにもいかず、ボクは苦笑いを浮かべたままだ。


「それでですね、安定期に入るまでの間、帝国城に留まろうと思っているのですが……」

「安定期とはなんだ?」


 あ、そうか……。今世では安定期って知られてないのか。


「安定期っていうのは、つわりが治まったりお腹の子どもの性別がわかるようになる時期のことで、その時期になるまでは流産する可能性が多かったりするんですよ」


 ざっくりだけどそう説明すれば、父とマイン兄はふむふむといった感じで頷いた。


「帝国城ではまともに皇妃を見れる女性の治癒術師がいないため、安定期に入るまでは見ていたほうがいいだろうとミアが判断したみたいです」


 正直にいえば、そこまでしてやる義理はない気がするんだけど、関わってしまった以上見捨てるなんてこと……ミアにはできないだろうしなぁ。


「ふむ……皇妃の安定期とやらはだいたいいつぐらいになったら入るのだ?」

「ミアの予想では三十日後くらいだそうです」

「三十日間も帝国にいるのかい?」


 マイン兄は驚いたようで目をパチパチと瞬かせていた。

 父はあごに手を当てて悩んでいるようだ。


「週に一度か二度ほど、こうやってジルクスが報告しに訪れるというのであれば、許可を出そう」

「ああそれならいいですね。帝国の情報がすぐに手に入るし……きっとジルなら皇妃の話以外も教えてくれるだろう?」


 父の言葉にマイン兄は笑みを浮かべた。

 どっちも腹黒い感じの笑みになってるんだけど、大丈夫だろうか。


「わかるようなら調べてきますよ……」


 ボクは投げやりになりつつもそう答えた。

 美味しいものや面白い工芸とか調べるだけじゃダメかなぁ……。

 父やマイン兄が欲しいのは、帝国内の動きとか騎士団の強さとかそういったものなんだろうけど、関わると面倒くさそうなものばかりなんだよなぁ。


「ああそれと、これをスウィーニー侯爵に渡してもらえませんか?」


 ボクはミアから託された手紙を机の上に置いた。

 かわいらしいミアの文字で「父様へ」と書かれている。


「内容は長期留守にすることについてらしいです。『陛下に読まれても構いません』と言ってましたよ」

「大したことは書いていないだろう。このまま渡しておく」


 父はミアの手紙を預かってくれるようだ。

 ほっとしていると、マイン兄がくすりと笑いながら言った。


「国王陛下に手紙を託すってジルもすごいことやってるね」

「父やマイン兄以外に頼れる人がいないからですよ」


 きっぱりとそう答えると、父は視線を逸らし、マイン兄は片手で鼻から下を隠した。

 二人にしか『転生者』だと伝えていない以上、頼れるのも二人だけだ。

 間違ったことは言っていないと思うんだけど、どうしたんだろう。

 首を傾げていたら、マイン兄がにっこりと笑って言った。


「ジルはそのままでいいよ。ずっと私たちを頼ってくれていいから」


 よくわからなかったけど、マイン兄の言葉に素直に頷いた。

もうすぐ書籍版二巻の発売日です

よろしくお願いします!


書籍版の二巻では、バートがどういう風に考えてなんでこんなことやったのかなどを

十ページくらい追記したような記憶が……。

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