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10.閑話3 皇帝の考え

 ノックの音とともに部屋に入ってきたのは皇帝クレメンテだった。

 無言のまま、皇妃ヴァネッサが横になるベッドへと向かう。

 途中で、ベッドのそばに立つミアに軽く頭を下げた。

 皇帝が頭を下げる……その姿に、皇妃ヴァネッサも年嵩の侍女も扉の前に立つ女性騎士も驚いた。


「ヴァネッサ、気分はどうだ?」

「とても良い気分ですわ」


 皇帝クレメンテの問いに、皇妃ヴァネッサは驚きの表情を微笑みに変えて答えた。


「ミア様、ヴァネッサは一体何の病気だったのですか?」


 皇妃ヴァネッサの答えから、完治したと思ったのだろう。

 皇帝クレメンテは嬉しそうな表情をしながら、横に立つミアに言った。

 治癒術師に対して敬意を表する……にしては恭しい話し方に、皇妃ヴァネッサたちは首を傾げた。

 ミアは苦笑しつつも、言葉を選んで答えた。


「皇妃様は病気ではございません。皇妃様のお腹には小さな命が宿っていたため、様々な症状が出ていたようです」

「い……のち?」

「はい。はっきりと申し上げますと、皇妃様は妊娠しております」

「に……んしん……妊娠!?」

「はい」


 皇帝クレメンテは目が飛び出しそうなほど驚き、そして、心の底から喜んだ。


「よくやった! ヴァネッサ!」


 パマグラニッド帝国では、現皇帝の血を引く子どもはソフィア姫しかいない。

 皇帝家の血を引く子どもも遠縁の者しか存在していない。

 すべて流行り病などで亡くなってしまったためだ。


「ありがとうございます、クレメンテ様」


 皇帝クレメンテは優しく皇妃ヴァネッサの手を取りお互いに見つめ合った。

 二人の間に入れる空気はなく、ミアはゆっくりとその場から離れた。

 離れた場所には、リザベラとテトラがおり、目を合わせてお互いに笑い合った。


 ミアたちはひとまず、賓客の間へと下がらせてもらうことになった。

 本来であれば、歓迎の宴を行う予定だったのだが、遅い時間だったため、翌日以降に行われると告げられた。





 その日の夜のこと……皇帝クレメンテは皇妃ヴァネッサの私室にて、喜びの祝杯をあげていた。

 もちろん、飲酒していたのは皇帝クレメンテだけだ。

 二人はただただ子どもができたことを喜びあっていたのだが、ふと皇妃ヴァネッサがミアのことを思い出して話題にのぼった。


「クレメンテ様はどうして、ミア嬢に対してあのように恭しい態度をなさったのですか?」


 それは誰もが思う疑問であった。

 皇帝クレメンテは祝杯のおかげで酔っていた。

 だからだろう、口止めされていたのにもかかわらず、ついぽろりと漏らしてしまった。


「ミア様は正真正銘の聖女様だからだよ。サラディーノが鑑定したのだ」


 皇帝クレメンテの言葉に、皇妃ヴァネッサは驚いた。

 驚いたのは束の間で、すぐに喜びの表情へと変わった。


「まあ! ではあたくしは聖女様に診察してもらったというのね! なんて素敵なことでしょう!」


 そうしてゆっくりとお腹を撫でながら言った。


「お腹の子が産まれるまで国にいてちょうだいとお願いしておいたのだけれど、お返事を聞く前にクレメンテ様がいらしたの」

「おお、それはすまなかった。では改めて、ずっと国に留まってもらうように頼んでおこう」

「ずっと……ですか?」

「ああ、そうだ。お腹の子が産まれるまでの間だけでなく、子どもが成長した後もだ。最上級の治癒術を簡単に使うことができる聖女様がそばにいれば、ヴァネッサも安心であろう?」

「たしかに、安心ではありますが……」


 皇帝クレメンテの言葉に皇妃ヴァネッサは言葉を濁した。

 子どもの成長だけを願っての言葉ではないことに気づいたからだ。

 皇帝クレメンテの言葉の裏には、今後戦争が起こった場合にも有利になるとの考えが透けて見える。


「まずは頼むところからだ。断られた場合には、こちらにも考えがある」


 皇帝クレメンテは祝杯を一気に飲み干して言った。


「ミア様はジルクス殿下と婚約している。そこを切り崩して帝国の者と婚約していただけばいい」


 酔った皇帝クレメンテはとんでもないことを言い出した。

 その答えに対して、皇妃ヴァネッサは首を傾げながらとど呟いた。


「他国の婚姻に口を出すのはいかがなものでしょう……」


 皇帝クレメンテの耳にその声は届かなかったようだ。

 自らが考えている案をどんどん語っていく。


「なあに、ミア様と婚約破棄して、ソフィアと婚姻するよう言えば良いだけだ。ソフィアはジルクス殿下を気に入っているようだし、ちょうどよい! 王族同士で婚姻のほうが良いに決まっている! 私とヴァネッサのように!!」


 皇妃ヴァネッサは大きなため息をつきながら、考えていた。

 ジルクスの気持ちを全く考慮していないこの考えは果たして成功するのだろうか……と。


ヴァネッサはいい人

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