09.閑話2 ミアの前世
「皇妃様、もう一つ体を調べる治癒術を使うことをお許しください」
「痛くないのならいいわ」
「ありがとうございます」
ミアは目を閉じ、新しい治癒術を創造した。
その場で創造できたのは〈職業:聖女〉だからだろう。
「……妊娠検査!」
『診察』のときと同様に皇妃ヴァネッサをまばゆい光が包んだ……。いや、お腹部分だけを包んだ。
そして、徐々に光が消えていくと、ミアはとても嬉しそうな表情をした。
『妊娠検査』……文字通り、妊娠しているかを調べるための治癒術を使った結果、皇妃ヴァネッサのお腹の中には赤ちゃんがいるのだとわかった。
「皇妃様のお腹の中に小さな命が宿っております」
ミアは言葉を選びつつそう伝えた。すると、皇妃ヴァネッサはまるでわかっていたかのように強く頷き、年嵩の侍女は目を見開いて驚いた。
「もしかしたら、そうじゃないかと思っていたのよ」
皇妃ヴァネッサはそういうと微笑みながらそっとお腹を撫でた。
皇妃ヴァネッサはもともと帝国の北にあるチェスナット王国の第三王女だった。
皇帝のクレメンテ・タルクィーニ・パマグラニッドが一目惚れしてしまい、強引に婚姻した仲だった。
クレメンテは嫉妬心からヴァネッサに男という男を近づけさせなかった。
それは診察のために訪れた年老いた治癒術師でも同じだった。
クレメンテが同じ部屋にいる状態で、部屋の扉からベッドで横になっているであろうヴァネッサに対して『診察』の治癒術を使わせるなど、徹底していた。
年老いた治癒術師は症状を聞いたかぎり、妊娠の疑いがあると思っていた。
しかし、『診察』の治癒術を用いても悪い部分がわかるだけで、妊娠していると断定はできない。
ぬか喜びさせるわけにもいかず、年老いた治癒術師は口をつぐんだ。
治癒術師が口をつぐんでしまえば、他の侍女たちは口に出すことができなくなった。
そもそもヴァネッサに仕えている侍女たちは全員、子どもを産んだ経験がないため、何も言えなかった。
「ソフィアを身籠ったときはこのような症状はなかったのよ。だから、別の病気かしら? なんて思ったりもしたのだけれど……老師の『診察』で悪い部分はなくて……」
皇妃ヴァネッサは懺悔するかのように話し始めた。
「その……月のものがきていないから、もしかしたら? とは思っていたのだけれど……。間違っていたときのことを考えたら、とても言えなくて……。お腹が大きくなって、はっきりと目で見てわかるようになるまでは黙っているつもりでしたの。でも、治癒術師のあなたがはっきりと言ってくれて、スッキリしたわ」
皇妃ヴァネッサの晴れ晴れとした表情を見て、ミアは微笑みながら言った。
「安定期に入れば、さきほど使った治癒術でお腹のお子の性別もわかると思います」
「安定期とは何ですの? 本当に性別がわかるんですの!?」
ミアは一瞬だけ「しまった」という表情をした。
「安定期というのはですね、その……皇妃様の吐き気などの症状が少し治まる時期のことでございます。それくらいになりますと、お腹も膨らんで命が宿っているとはっきりとわかるようになります」
ミアが話しているのは、前世で得た知識だ。
妊娠出産を経験したことはないが、病気や怪我、妊娠など医療にかかわる勉強をしてきたことがある……ミアの前世は看護学校に通う学生だったのだ。
「まあ! 本当にあなたは優秀な治癒術師なのね! ぜひともお腹の子が産まれるまでこの城にいてちょうだい。あなた以外にあたくしに触れることができる治癒術師はいないんですもの」
皇妃ヴァネッサの子が産まれるまでとなると、半年以上滞在することになる。
それはさすがにどうだろうかと思い、返事に困っていたところ、ノックの音が響いた。
二巻の発売が今週末〜
三巻出せるようにWebを更新せねばっ です(苦笑)