06.謁見の間へ通されました
帝都は三階建てくらいの高さの城壁に囲まれた城塞都市だった。
夕暮れ近くに着いて、貴族専用の門で審査を受けた。
国境を越えるときに帝国城へ向かうことを伝えてあったからか、特に怪しまれることもなくすんなりと門を通る許可が下りた。
きっと、早馬かなにかで通達がいっていたんだろうなぁ。
帝都の大通りを走っていると、馬に乗った集団がボクたちに向かって走ってくる。
甲冑を着ているし、あれって騎士団っぽい人たちだなぁ。
「私は、パマグラニッド帝国の第一騎士団長ピエロ・フォン・カファロと申します。これより帝国城へ案内させていただきます」
騎士団っぽい人たちの先頭にいた人がボクたちが乗っている馬車を止めてそう言った。
え? ピエロ……道化師……? か、変わった名前の人もいるんだなぁ。
「よろしく頼む」
ボクは馬車の小窓から、騎士団長の顔を見てそう言った。
別に白塗りに涙とか、赤い十字が描かれてたりとか、鼻の先が赤くて丸いとかじゃなかった。
茶色の髪のがっしりとした体型の誠実そうな騎士様だった。
帝国城への道は思っていた以上に複雑で、案内があって本当によかった。
他国からの侵入に備えてのこういった造りにしているのかと思うと……セリーヌ王国って大丈夫だろうか、と不安になった。
帝都に入ってから一時間くらいたったころ、ようやく帝国城へと着いた。
城に着いたのはいいんだけど、旅装のままではダメだってことで賓客の間へ通されて、お風呂入ったり着替えたりした。
ボクの着替えはヘキサに手伝ってもらった。テトラはミアの準備を手伝うように言ってある。
一応、今回は長居する可能性もあるから、侍女や護衛たちは別の馬車で到着することになっている。
……たぶん、一週間後の到着になるだろうけど、なんとかなるだろう。
ボクたちの準備が整ったころ、謁見の準備もできたようで先ほどの騎士団長に案内されて、謁見の間へ通された。
パマグラニッド帝国の謁見の間は、セリーヌ王国と違って、とても豪華で中央に敷かれている赤いカーペットはとてもふかふかだし、壁に掛けられている絵画や彫刻、陶芸品なんかも特別性のものだった。
ざっと鑑定したけど、刺客っぽいものや呪い、毒といったものは配置されていないようだ。
「お初にお目にかかります。セリーヌ王国、第二王子ジルクス・ローズフォード・セリーヌです。こちらは、婚約者であるミア・フォン・スウィーニー。本日は、パマグラニッド帝国の第一皇女ソフィア姫からの依頼で参りました」
そう告げるとパマグラニッド帝国の皇帝は大きなため息をついたあと言った。
「ソフィアの依頼とは一体なんだ?」
皇妃の体調が悪いという話、セリーヌ王国では広まっていなかった。
それって、パマグラニッド帝国内でもウワサとして広まっていないという意味で、もしかしたら秘密にしているのかもしれない。
で、あれば、この場ではっきりと依頼内容を言うわけにはいかない。
「依頼内容はこちらにあるソフィア姫からの手紙、ならびに宰相から預かった手紙に書かれています。どうぞ」
ボクはそういうと、隣に立っている騎士団長に二通の手紙を渡した。
騎士団長はそれを開くことなく、皇帝のそばに控えていた従者に渡した。
従者は手紙を開き、毒などがないのを確認すると皇帝へと渡した。
直接鑑定するか、鑑定のアイテムを使えば、すぐにわかるんだけどなぁ。
帝国は遅れてるって話、本当なんだなぁ。
皇帝はまずはソフィア姫からの手紙を読むと首を傾げた。
次に宰相からの手紙を読み、頭を抱えだした。
「騎士団長と客人たち以外は部屋から出よ」
皇帝は頭を抱えつつもそう言うと、従者や騎士は素直に部屋から出て行った。
帝国側の人間が皇帝と騎士団長だけって大丈夫なんだろうか。
「宰相の手紙によると、皇妃を癒すためにジルクス殿下が来るとのことだが……」
「はい。皇妃様の状態にもよりますが、最上級の治癒術を用いて病気を治すつもりで参りました」
「ならぬ!」
「はい!?」
「男であるジルクス殿下を皇妃のもとへはやれぬ!」
ボクは、皇帝の言葉に驚いて、口をぽかんと開けた。
「……皇帝陛下は、その……とても皇妃様を大事にしておりまして……」
ボクの隣に立っている騎士団長がぼそぼそと皇帝には聞こえない程度の声でつぶやいた。
「帝国では、女性は要職につけないため、その……城内に女性の公認の治癒術師がおらず……。皇妃様を診察している老治癒術師殿も、皇帝陛下が必ずいる状態で部屋の隅から……という有様で……」
つまり、皇帝の嫉妬心で男を近寄せられないから、皇妃の症状もよくわからないし治癒術もかけられないってこと?
人命が掛かっているのに、何してんの!? むしろ、何もしてないの!?
ボクが唖然としていたら、騎士団長とは別の方向から声が発せられた。
「皇帝陛下! それでは女性の治癒術師であれば、皇妃様の容態を確認してもよろしいでしょうか?」
声の主はミアだ。
皇帝だろうが強気で発言しちゃうとか、さすがミアさーん!
発言を聞いた皇帝は姿勢を正して、ぎろりとした目でミアの顔を見た。
「ほう? セリーヌ王国では女であっても治癒術師になれるのか」
しばらくの間ミアを見つめた後、大きくため息をつき手元にあったベルを鳴らした。
甲高い音が響くと、玉座の横にあった扉から従者が現れた。
「鑑定師を呼べ」
「ハッ」
従者はまた横の扉へと消えていった。