05.あっさりと帝国へ入ります
王都を出てしばらくは街道を走っていたんだけど、ちょうどいい感じの場所に森が見えたから、そっちへ行くように指示を出した。
「う、う~ん……あれ? 私、いつの間に眠ってたんだろう?」
「王宮を出てすぐでございます」
整備された街道とは違ってデコボコな道を走ったため、ミアが起きたようだ。
振り向いて、一番後ろの席に座っているミアを見れば、まだ眠たそうに欠伸をしていた。
貴族の令嬢だけど、無防備に眠ったり欠伸をしたり……ホント、ミアはかわいいなぁ……。
森のすぐ近くで馬車を止めさせた。
周囲に人や馬車がいないことを確認した上で、馬車から降りた。
ボクだけが降りるつもりだったんだけど、なぜかみんな降りてきた。
「ミア、大事な話をしたいから……」
ボクは降りてきたミアにそう声を掛けると、すぐに向き合って両手を繋いでくれた。
「馬車と護衛の二人が乗っている馬、それから同行メンバー全員を囲うように掛けるよ」
「うん、わかった」
ボクとミアの様子にリザベラは不思議そうな顔をしていた。
大きく息を吸い、ミアに向かって大きく頷くと同じように大きく頷き返された。
それを合図にして二人同時に魔法を唱える。
「「……隔離!……閉鎖!」」
隔離は空間を切り離して盗聴を防止するもので、閉鎖は切り離した空間の出入りをできなくするものだ。
これで、周りを気にせずに話すことができる。
「これからのセリーヌ王国内での動きについて話がある」
ボクはそう前置きして、説明を始めた。
ロックハンド領へ向かったときと同様に、早急にパマグラニッド帝国へ向かわなければならない。
そのためアイテムバッグのスキルを使って荷物を軽くすること。
馬たちに治癒術を施しつつ走らせること。
ここまでは、体験済みなので、御者も護衛たちもうんうんと頷いていた。
「それから、瞬間移動のスキルを使って、この場所からロックハンド領近くまで瞬時に移動するから」
ボクの言葉を聞いた途端、御者のおじさんはぽかんと口を開けたまま、何も言わなくなった。
いや、いつも無口な人なんだけどねぇ。
護衛Aは目を見開いて驚いているし、護衛Bにいたっては目を伏せたままぶつぶつと何かを言っている。
護衛Aはアスドルバル、護衛Bはベルナルディノっていう名前なんだけど、二人ともボクには呼びづらい名前をしているから、心の中で勝手に護衛A・護衛Bって呼んでいる。
「ああ、一応……アイテムバッグや瞬間移動のことは口外しないように」
御者のおじさんは長年、王家に仕えている人だからそう簡単に口外することはないと思う。
ミアの護衛二人に関しては、まぁ……スウィーニー侯爵が選んだ人物だし、たぶん大丈夫だろう。
ボクは三人の返事を待たずに行動を開始した。
馬四頭とハイイロオオカミ一匹、ボクを含めて八人……それから馬車とか荷物とか、すべてに意識を巡らせて瞬間移動のスキルを使った。
視界がぐにゃりと揺らいで瞬きをしたら、そこはロックハンド領の領都とオールが住んでいた森との間だった。
ここからなら、ロックハンド領の領都を通って、国境近くにある砦へと向かいやすい。
砦を抜ければ、パマグラニッド帝国だ。
大所帯をまとめて瞬間移動させたからだろう、魔力の消耗を感じてふらついてしまった。
「ジル!?」
そんなボクにミアは気づき、慌てたようた様子で声を掛けてきた。
ボクは何でもないよと微笑んで見せた。
一応、ボクだって男なんで、カッコ悪いところは見せたくないんだよ!
「触れずに瞬間移動を行うとは、さすがジルクス様ですね……フフフ」
「私もヘキサも触ったものしか瞬間移動はできないんだよー? 主様、ホントすごいー!」
「え?」
てっきり、触らなくても瞬間移動できるものだと思っていた!
魔力の消耗が激しいのは、触れずに瞬間移動したためだったんだな……。
次からは、触れながらスキルを使うことにしよう。
この後、ロックハンド領へ入り、必要な食材や消耗品などを買い込んですぐに再出発した。
そして……特に苦労することもなく、あっという間に一週間が経ち、帝国の帝都へと入った。
本当は途中で盗賊に襲われる話とか入れたかった!
と、作者の心のメモ(笑)