16.やっと迎えの一行が来ました
やっと、帝国からソフィア姫の迎えの一行がきた……とのことで、玉座の間に呼び出された。
現れたのは、パマグラニッド帝国の宰相だそうでやつれきった表情をしていた。
宰相がくるなんて、ソフィア姫の行動ってきちんと問題視されてるんだなぁ。
「この度は、パマグラニッド帝国の第一皇女であるソフィア姫が、貴国に対して多大な迷惑をかけたこと、謝罪申し上げます」
帝国の宰相はその場でそう言うと、三秒間だけ深々と頭を下げた。
頭を上げると苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべていた。
「即刻、ソフィア姫を連れて国へ帰りたいと思います。姫、行きましょう」
「嫌ですわ。まだ、ジルクス殿下をものにしていませんもの」
ソフィア姫は宰相の言葉に聞く耳持たないようで、そっぽを向いた。
すると、宰相は懐から手紙を取り出して、そっとソフィア姫に渡した。
ソフィア姫はいぶかしんだ表情をしつつ、手紙を受け取るとその場ですぐに読み始めた。
「お母様が!?」
宰相が慌ててソフィア姫の口を閉じようと手を伸ばしたけど、間に合わず叫び声が響いた。
ソフィア姫は目を見開いて呆然とした表情になっていたけど、すぐに我に返ったかと思うとまた叫んだ。
「か、帰りますわ!!」
ほんの少し前まで、帰るのは嫌だと言っていたのに、急に考えが変わるということはよっぽどのことがあったのだろう。
「迎えの一行も疲れているだろう。明朝、出発すればよいだろう」
父は意地の悪そうな笑みを浮かべながらそう言うと、帝国の宰相は目を左右にきょろきょろさせながら黙り込んだ。
「何か困りごとがあるならば、セリーヌ王国国王アシェットの名において、対応するがどうかしたか?」
さらに追い打ちをかけるように父がそう言うと、ソフィア姫が早口で言った。
「お母様の容体が悪化したんです! 早く帰らせてください」
ソフィア姫の言葉を聞いた途端、父の目の奥がキラリと光ったように見えた。
これって間違いなく帝国の弱みだよねぇ。
そんなもの晒しちゃったら獲物を見つけた猛獣みたいに光って見えてもおかしくないよねぇ。
帝国の宰相は大きなため息をついたあと詳しく語りだした。
パマグラニッド帝国の皇妃様が体調を崩し始めたのは、ふた月ほど前だそうで原因不明のようだ。
皇族の専属治癒術師たちが必死になって治癒術を施したにもかかわらず、回復の兆しを見せないのだそうだ。
「あたくし、どうしてもお母様に旦那様を見せたくて……慌ててジルクス殿下に求婚しにきたのです! 婚約者がいるのは知っていたけれど、なりふり構っていられなかったのですわ」
「ふざけるな! 人は死んだら生き返らないんだ。求婚するよりももっと他にすべきことがあるだろう!」
ボクは怒りに任せて怒鳴っていた。
人命がかかっているのに、求婚しにくるとか先にやるべきことがあるだろうが!
この世界の治癒術は前世の医療と違って万能なんだ。治せないはずがない!
「そうね……ジルクス殿下の言う通りですわ。あたくしが間違っておりました。迷惑をかけたあとにこのような願い、厚かましいとは思いますが……セリーヌ王国で一番の腕利きの治癒術師の派遣をお願いいたします、陛下」
ソフィア姫は、帝国の宰相が謝罪したときよりも長く深々と頭を下げた。
それを玉座で見つめていた父は、意地の悪い笑みを浮かべたまま言った。
「それは、セリーヌ王国に対して借りを作ることになるが、それでもいいのだな?」
「人は死んだら生き返らないのでしょう? お母様が生き延びるのであれば安い借りですわ!」
ソフィア姫はそう胸を張って言った。
「そういうわけだが、ジルクスはいいか?」
父はまっすぐにボクの顔を見て言った。つまり、ボクのことを国で一番腕のいい治癒術師として認めているということか。
気づいてしまうと照れくさいけど、相変わらず意地の悪い笑みを浮かべながら聞いているので、内心の感情は隠しておく。
「ミアも一緒であればいいですよ」
ソフィア姫は不思議そうな顔をしながらボクを見ていた。
「では決まりだな。王国最高峰の治癒術師二名をパマグラニッド帝国へ派遣する」
父がそう言うと、ソフィア姫と帝国の宰相はさきほどよりも長い時間深々と頭を下げた。
「出発は明日。先に言っておくが、派遣する治癒術師二名に対して不埒な真似や不適切な扱いをした場合、帝国に対してそれ相応の対応を取らせていただく」
先ほどまでとは違って、父の目が据わっていて怖い。
でもこれって、ボクとミアのことを考えて言ってくれたんだよねぇ。
意外と大事にされてる?
それに気が付いた途端、頬が少し熱くなった。
これで5章終わりです
次から帝国編の予定です