15.ボクだって怒ります
今日はミアの家……スウィーニー侯爵家に遊びに来た。
天気もいいし、ミアの召喚獣である狼の子どものオールを遊ばせたいということで、庭の東屋でお茶をすることになった。
天使族でボクの護衛その一であるヘキサはすぐそばで給仕をしている。その二であるテトラはボールを投げてオールに取りに行かせる……という遊びをしている。
久しぶりにまったりとした休みだなぁなんて思っていたら、ミアが先日の出来事を話し始めた。
「はぁぁ!? バートが来た!?」
「うん、商人らしく宝飾品を持ってきてたよ。それで、手を掴まれそうになって……」
何かがぶちっと切れた感じがした。
「よし、帝国をつぶそう」
ミアに手を出さなければ、戦争はしないつもりだったけど、出したのであれば別だ。
これは徹底的につぶさねばならない!
「ま、まってジル! 帝国よりも商人をどうにかしよ? ね?」
ミアはまるでボクの心の声が聞こえていたかのようで、帝国をつぶすより商人をつぶすように諭し始めた。
必死にボクを止めるミアがかわいいから、帝国をどうこうするのはやめるとして……バートは許さない。
「そうだね、ミア。帝国よりもバートをつぶすべきだね。ミアに手を出すなんて……!」
「えっと、指輪のおかげで直接触れられてはいないよ」
「直接触れられていなくても、ミアに手を出そうとしたその行為が許せないよね」
ボクはにっこりとそう言った。
ミアの顔が少し、引きつって見えるのは気のせいかなぁ。
「えっとえっと……オールが半日かけて商人を追いかけまわしていたから、きっと今日は筋肉痛で苦しんでると思うよ!」
「それだけじゃ足りないと思うんだよね」
さらににっこりとしながらそう言うとミアの顔は完全に引きつってしまった。
ごめんね、ミア。ボクにだって許せないことはあるんだよ。
「筋肉痛で苦しんでいるのなら、きっと宿にいるだろうし、ちょっと行ってくるよ」
「こ、ころしちゃだめだからね」
「殺すなんて、そんな生ぬるいことしないよ」
どうせやるなら、苦しみながら生きてもらわないとね……。
ボクはミアに断りを入れた後、すぐにバートのいる宿の前へと転移した。
宿のおばさんにバートの部屋の位置を確認していると、ソフィア姫が連れてきていた従者とすれ違った。
ボクに気づかなかったのか、そそくさと出て行った。
階段を上り、バートの部屋の前についた。
大きく深呼吸を一つした後、事前詠唱を唱える。そして、勢いよく扉を開けて、発動言語を放った。
「……影縫!」
影縫とはその名のとおり、影の中にいるものを縫い止めて動けなくする初級魔術だ。
部屋の中ならば、すべてが影になっているはずだ。バートが逃げ出せないように先手を打たせてもらった。
部屋の中にいたバートはいきなり現れて影を縫われたのにもかかわらず、疲れ切った表情をしていた。
「……今度はおまえか。オレはもう、おまえとは関わりたくない」
バートはそう言うと、深い深いため息をついた。
「そういうわけにはいかない。ミアに手を出したんだ……きっちり落とし前はつけさせてもらうよ」
バートはボクの言葉を聞いたあと、また先ほどのように深い深いため息をつき、言った。
「異世界に転移してから十年。ずっとソフィア姫に仕えていたけど、もう疲れたんだ……」
ボクはバートの言葉に少しだけ、違和感を覚えた。
今まで、あれだけ尊敬しろと言っていたソフィア姫に対して疲れたというのはどういうことだろう。
バートの態度もなんだかやさぐれた感じにも見えるし……。
急に態度を変えてくるとか、ボクのやる気はどこへぶつけたらいいんだ!
「一思いにやってくれよ。……オレの居場所はここにないって、さっきはっきりしたんだ」
バートは弱々しく笑った。
「どういうことだ?」
「さっき、ソフィア姫と縁が切れたんだ。オレはやりすぎたんだな……」
詳しく聞いたところ、バートの行動が目に余る行為だったため、帝国とは一切関係のない人物というお手紙をもらったそうだ。
はっきりと言ってしまえば、帝国から見捨てられたということ。
「帝国と無関係になったというならば、王国としてはそれ相応の対応をさせてもらう」
「好きにしてくれ」
ボクはすぐに近衛騎士を呼んで、バートをロックハンド領を混乱に陥れた者として牢屋送りを命じた。
二巻発売決定しました
3/30発売予定です
イラストは一巻に引き続きシロジ先生です
喜びよりも先に動揺が走ってて、ものすごく冷静です(笑
これからも、がんばるので応援よろしくお願いします!




