12.今度はボクの番ですか
番 (ばん)です
番 (つがい)じゃないですw
ソフィア姫がセリーヌ王国とパマグラニッド帝国では常識が違うのだと理解した翌日、ボクはバートに絡まれていた。
「ジルクス殿下! 私と決闘をしていただきたい!」
これって、「絡まれる」で合ってるよね?
前回の教訓から、ミアが王宮へ訪れるときは門まで迎えに行くことにしたんだけど、それを待ち伏せされて声を掛けられた。
挨拶もなしにいきなりこのセリフを聞かされるとか、さすがに顔が引きつって言葉が出なかった。
「私が勝った暁には、ジルクス殿下には潔く今の婚約者と婚約破棄していただき、ソフィア姫と婚約していただく!」
日本人を思い出させる容姿のバートの言葉を聞いた瞬間、頭を押さえたくなった。
ツッコミどころが多すぎる!
一介の商人が隣国の王子に普通に話しかけるとか失礼極まりないし、貴族との婚約破棄について言及する権利もないし、ソフィア姫と婚約とか……商人が決めることじゃない。
ボクが返事に困っているとみたのかバートは急に煽り文句を言い始めた。
「セリーヌ王国の第二王子という立場であれば、決闘を挑まれて断るなんてことありませんよね?」
王子だったら誰でも彼でも決闘を挑まれたら受けるなんて発想どこから出てくるんだ。
そんなもの受けてたら、体がいくつあっても足りなくなる。どう考えても、非現実的すぎる。
さらにボクが黙っているのを見て、バートはブツブツと何かをつぶやいた。
『なんだよこいつ、全く反応しねえ。やっぱ転移者であるオレ様には勝てないと思って悩んでいるんだろうな』
聞こえてきたのは、今ではミアとしか使わない日本語。そして、転移者という単語。
つまりバートは日本人の転移者というわけか。どうりで見た目が黒目黒髪の日本人っぽい容姿なわけだ。
『やっぱモブ王子なんてこんなものか』
こちらが理解できていないと思って、好き勝手なことを言ってやがる。
ボクは大きくため息をついた後にたった一言だけ言った。
「断る」
ボクの答えに不服だったようでバートは顔を真っ赤にして叫んだ。
「はぁ!? 逃げるというのか!」
バートはボクに近づいてきて、胸倉をつかもうとしたけど、ボクが一歩下がったことで空中つかんでよろけた。
この反応の鈍さでボクと決闘とか言い出したのか? 大丈夫なんだろうか。
「に、逃げるな!」
再度、バートはボクの胸倉をつかもうとしたけど、つかめなかった。
今度はバートとボクの間にふわりと人が現れたからだ。
「主様ー? 面白そうなことしてますねー!」
ボクに背を向けて間に入ったため、バートはテトラの胸倉をつかんでしまったようだ。
「な、なんだおま……え……、うわああああ!」
テトラはバートの手首を軽くひねって、足払いをした。バートはあっけなく床に倒されるとそのまま、テトラの右手で首をつかまれていた。
「主様、こいつ絞めていい?」
「ま、まて! やめろおおお!」
「どうしよっか?」
バートの悲痛な叫びは無視して、ボクは軽く首をひねった。
さすがにソフィア姫にくっついてきた人間に何かしたらまずいかなぁ。
でも、ミアとの関係を邪魔そうとしていたしなぁ。
「た、たのむから、やめてくれえええ!」
「主様ー?」
「ん~……殺すのはまずいけど、何かトラウマ与えるとかできるか?」
「おまかせくださーい!」
テトラはそう答えるとバートの胸倉を嫌そうにつまみ持ち上げながら言った。
「このまま、お散歩してきまーす!」
そして、一対の翼を広げ軽く浮いた後、ふわっと空中で消えた。
「ぎゃああああああああああああ!」
建物の外から、叫び声が聞こえた。窓の外を見ると、上空から何かが落ちてくるのが見えた。
地面に落下する直前、白い翼をもったゴスロリメイドがその落ちてきていた何か……バートのわきの下をつかんで、激突するのを防いだ。と、思ったらまた空へ飛んでいく姿が見えた。
パラシュートなしの空中落下を何度も体験とか……たしかにトラウマになるかも。




